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「というか一つ質問。どうして四人乗りを三台用意したんだ?」
「あぁ、それかい?」
馬車に揺られながら問うと、カタギリは軽く肩をすくめて見せた。
実に個人的な理由なんだけどね、と前置きをして、彼は言葉を続けた。
「まず一台目にはティエリアとアレルヤだけに乗ってもらおうと思ったんだよ。どうせティエリアのことだし、誰か適当な女の子をって事は無いと思ったからね」
「んじゃあ、どうしてあと二台用意してんだ?」
「この時期だし、ソーマちゃんが来てると思ったからねぇ」
そう言う彼曰く、二台になるとちょっと困ることがあるらしい。
二台目にカタギリ、グラハム、ハレルヤ、ソーマの四人が入ってみると……絶対に騒がしくなるので遠慮したかったそうだ。
あるいはソーマを一台目に入れるのも手かと思ったそうだが、そうするとハレルヤが黙っているわけがない。逆もまた然りで、グラハムが入ったらさらに上の状況に陥るし、カタギリ自身が行けば問題を避けようというのに…本末転倒である。
「あぁ、ツッコミがいなくなるか…」
「一応僕がグラハムの保護者だからね、近くにいないと困るんだ」
「近くにいても止められない時もあるみたいだけどな」
「………そうだね」
そう話しながら、二人揃って向かいに座っている二人を見る。
凄く楽しそうなグラハムと、そんな彼に抱きつかれている刹那の姿を。
「……………………分かっているならお前がどうにかしろ、ロックオン・ストラトス」
「無茶言うなって。カタギリに出来なくて、どうして俺に出来るっていうんだよ」
「知るか。いっそ銃殺でも何でもしろ」
「無茶って言うかそれは無理の類だろ!?ていうかやったら俺が犯罪者じゃねぇか!」
「お前の事情は関係ない」
理不尽な言葉の数々だが……八つ当たりだろう、これは。
苦笑すればいいのか溜息を吐けばいいのか……どっちが正しいのか。
まぁ、彼も彼なりに気は遣っているようだし、苦笑の方が正しそうだ。
四人乗りの車内は、狭いとは言えないが広いとも言えない。
そんな場所だからこそきっと、刹那は抵抗もせずにただ、されるがままになっているに違いなかった。本当は今すぐにでも殴って暴れて逃げ出したいだろうに。
「グラハム、いい加減離れてあげたらどうだい?彼も辟易しているようだし」
「何を言う。折角私の運命の人とこうして再び相まみえることが出来た上に、彼にこのような奇跡的な現象が起きたのだぞ?どうして抱きしめずにいられるというんだ?」
「そこから『抱きしめる』にまっすぐ思考が行き着く君が分からないよ、グラハム……」
とりあえずのカタギリの正論な注意だが、それも良く分からないグラハムの理論の前では形無しである。
……そもそも、グラハムに言葉で勝てる誰かがいるのだろうか…。
それ以前に、ちゃんとした会話が出来る誰かはいるのだろうか……。
普通に話そうと思えば話せるのに、いったい何故に常態ではこんな言葉使いなのだろうか……黙っていればいたって普通の男性だというのに。
もっとも、ロックオンには関係ない話ではあった……が、あの性格の形成理由は知りたいというか何というか。その理由が判明すれば、こちらとしても手の打ちようが出てきそうなのだが。
「いや……無理か。手に負えないし…」
「何を一人でブツブツと言っている」
「グラハムへの対抗策を考えてたんだよ。いい加減、コイツは俺もどうにかしたいし」
「どうにかするのは不可能だな」
力強い断言に思わず目を丸くする自分に構わず、引っ付いているグラハムを鬱陶しそうに見ながら、刹那は言葉を続けた。
「そんなことが出来るような相手なら、元々苦労はない」
溜息付きのその言葉に、少しばかりの同情を覚えた。