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「……俺は今、非常に物申したい気分なんだが」
「奇遇だな、眼鏡。俺も今はそんな感じだぜ」
「二人揃ってというのは珍しいですね。一体どうしました?」
いけしゃあしゃあと言う目の前の女に若干のいらつきを覚えながら、ハレルヤはソーマの隣で寝息を立てている片割れの姿を見た。
寄りかかるならば馬車の壁の方にすればいいのに、どうして……。
どうしてわざわざ、ソーマの方に寄りかかるのだろうか。
一番最初にアレルヤが乗り込んで、次にソーマが乗り込んで……その順番が問題だったらしいが、止める間もない早業だったのだ。仕方がなかったと言う他ないだろう。何せ、自分だけでなく横に座っているティエリアまでもがそうだったというのだから。
密かに片割れの隣を狙っていた身としては、腹立たしいの一言に尽きる。
特に屋敷の主の方の怒りは凄まじい物があろうが、生憎、そちらはどうでもよかった。むしろ彼については、今の状況で居ることに『ざまぁみろ』的な気持ちなのだし。
にしても、と目の前にある片割れの寝顔を眺める。
熟睡、彼の様子はそれだけで十分に表せた。
身を乗り出して頬をクイと引っ張りながら呟く。
「良く寝るよな……今のところ、過度の睡眠はいらねぇんじゃねぇの?」
「昨日は夜更かしをしてしまったと言っていましたから、多分、それのせいでしょう」
「夜更かしか…秘密にしている何かと関係でもあるのか?」
「俺に訊くな、俺に。知らねぇんだよ」
なのに別の馬車に乗っているチビは知っていると言うから気に入らない。
……いや、チビは違うのか。理由は不明だが一晩で大きくなっていたから、小さいと言えるほどの大きさではないだろう。
そう考えて、しかし自分よりは小さいのだからチビのままで良いかと思い直した。
さて、今は少女に変身しているアレルヤだが、彼も変わってしまったと言うしどのように変わったのだろうか?気にはなるが、こちらは事が一段落ついてからでないと見れないのが辛い。
宿泊先でこっそりと見せてもらおうと決めて、ついと視線を窓の外に向ける。
歩くよりも走るよりも速く、そこそこのスピードで過ぎ去っていく風景。
「……遅ぇ」
「諦めてください、ハレルヤ。馬車に乗っているのですし」
「というか馬車にこれ以上のスピードを求めるな」
「いつもの裂け目使って行けりゃ、一番楽なのによ」
あれならば、どんな距離でも一瞬で移動できる。
対して、こちらでは時間が掛かる。都まで丸一日も掛かってしまうのだ。
だからといって裂け目で行くわけにはいかないのが…何とも言えない。
都は人間の都市である。人間が暮らし、人間が行き交い、人間が生きている場所であり、決してその他の種族が入ることは出来ない……とされている。
しかし実際は、普通に異端も魔族もおそらく月代も、簡単に入っているのだ。
だが、入れはしても、いつものように行動して良い、というわけでもない。
都内には至る所にとある装置が設置されており、その装置によって特殊な力を使った瞬間に気づかれてしまうのだ、そこに人外が居ると。
その後は、都の狩人や軍が現れて、という仕組みである。
魔王としての、例の力ならば察知されることもなく使うことも出来るだろう。月代のあの力も同様に。この二つは人間たちが未だに辿り着けていない能力だから、察知させる方法というのがない。辿り着いてない、つまり知らないのだから対策は無理だ。
そういうわけだから、裂け目に関しては無理なのだ。
まぁ、どんな物にも例外はある。その装置の範囲から外れる隙間、そこで使えば支障はないだろうが、そこを狙って裂け目を……というのは普通ならば無理があるだろう。
面倒な…そう思いながらも、ハレルヤは都に行くこと、久々にあちらの知り合いに会えることが少しだけ、楽しみだった。
きっと、アレルヤが喜ぶから。