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翌日、刹那とアレルヤ、ソーマの三人は都の町中を歩いていた。
ティエリアが外に出たくないと言い、ハレルヤは眠いからと言って熟睡中。沙慈とルイスはのんびりとしていたいのだそうだ。逆にグラハムはフラリと消え、ネーナとミハエルはどこかへと遊びに行った。
では一晩中語り合うとか言っていた保護者たちはどうしたのかというと、目元にクマを作っていたりしたので宿にくくり付けてきた。本当に一晩中語り合ったらしい。よくやるものだと感心したが、裏を返せば一晩かけてでも話せることがあったという事であり……気にしないことにした。まぁ、彼らだし、ということで。
というわけで、都に来たことのない刹那の道案内として、二人が一緒に付いてきてくれたというわけだった。襲撃を受けたのはつい先日なので、どこにいても警戒心が解けないのは当然であり、慣れない土地でもせめて様子くらいは知っておきたい。そう思っての行動だった。いざとなると、一番足手まといは自分だから。
異端に対抗できる力……それを持っている刹那だが、力の行使中は動けない。その上、使った後は疲労で動けない。使い勝手の悪い力である。
対して、横にいる二人の力は違う。『書き換え』の力はさておき、他はほとんど無制限に使用できる。精神力が尽きさえしなければ。……そんなこと、あまり無いような気がするのはやはり、この二人だからかも知れない。
とまぁ、それは置いておいて。
「アレルヤ、」
「何?」
「…何故、その格好でいる」
首をかしげたアレルヤは変身後の状態……つまり、女性に変身している状態名わけなのだが……これは、彼はあまり好きではなかったはずなのだが。
なのに今、どうしてその姿なのだろうと刹那は疑問に思ったワケなのだ。
「えっと、パーティに出るのはこの状態だよね」
「それはそうでしょう。それでないと目的は達成できません」
「で、そのパーティには皆で行くけれど、その中に『僕』はいない。もしも普通の姿で君たちと歩いている姿が見られた場合、どうして『僕』がいないのかなって話になるかも知れないから……それの防止。そもそも、今この状態の僕はともかく、普段の『僕』は都に入っていないことになってるんだし」
あぁ、と苦笑を浮かべて答えた彼の言葉に、何となく納得する。
つまりはあれだ。念には念をというヤツである。そこまで色々と考え込んだりする相手は滅多にいないのに、念のために……という状況にあるのだ。
嫌だろうな、とアレルヤに同情しながら何気なく視線を通りを挟んだ向こう側に向けて……刹那は固まった。
そこには、いるはずのない相手がいた。
「っ……アレルヤ、どこか隠れることが出来る場所は…っ」
「え?刹那…どうかした?」
「説明は後でする!とにかく姿を隠せる場所…店でもどこでもいい!」
「なら、この喫茶店に入りましょう」
ソーマが指さしたのは直ぐ隣の店の、その隣の店。割と近い場所に立っている建物。
よし、と頷いて走って行こうとして、しかしそれは為されなかった。
何故なら、声が聞こえたからだ。
「あら、刹那?刹那なのね!」
「……っ」
そう言って駆けてくる相手を…刹那は、ジッと見ているしかなかった。
噂をすれば影とは言う。確かに最近ふと思ったりしたけれど、口に出したつもりはないし、本当に会いたいとも思っていなかったはずなのだけど。
「会いたかったわ、刹那!」
「…俺は…」
ギュッと抱きついてきた彼女の後ろ側で溜息を吐いている侍女と、驚きの表情を浮かべている連れを見ながら小声で呟く。
「俺はあまり会いたくなかったかもしれない……マリナ・イスマイール」