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未だに起きない三人を眺めながら、マリナとアレルヤはのんびりと会話を続けていた。
昔の刹那の話だとか、アレルヤの『身内』の話だとか、民族料理の話だとか、本来澄んでいる屋敷の話だとか。話のネタは尽きることなく、二人は暇な時間をある意味では無駄にだが、ある意味では有効に消費していった。
そして、話の内容はこんな所にまで及ぶ。
つまり、マリナ自身が暗殺されるかどうかについて。
「そういえば、マリナさんって暗殺されかけたりとかは?皇女でしょう?」
「数えてみると結構あるわね。両手じゃ足りないのは間違いないわ」
「へぇ……でも生きてますよね。警護の人がとても強いとか?」
「それもあると思うわ」
だが、それ以外にも要因らしいものが一つある。
それは、一度暗殺に来て失敗した者が再び襲ってくることがまれであることだ。プロの意地に掛けて、というのがない分ほど楽になっているだろう。
「え?二度目が来ないんですか?」
「多分、ちょっとした罰のせいだと思うの」
「どんな罰なんです?」
「凄く単純なんだけどね」
ぴん、と人差し指を立てる。
それからそれを頬に当てて、思い出すように瞳を閉じた。
「捕まえた暗殺者さんたちでも、殺したりするのは可哀想だと思わない?だから私、ちょっと考えついたの……新しい罰をね」
「新しい罰、ですか」
「そうよ。食卓に座ってもらって、食べてもらうの」
「何を?」
「カエルとか」
「…はい?」
瞳を開けば引きつった表情が見えたが、気にすることなく両手を胸の前で合わせ、微笑みながら続きを口にする。
「安心して、ちゃんと最初は食用よ」
「最初はって…まさか」
「そう、二度目の人は野生のカエルをあげたわ。けど、それでも懲りない人が一人二人いてね……その人たちにはしょうがないから、カブトムシを」
「カッ…!?」
「四段階目に来た人はいないわ。残念よ。クモも用意して待っていたのに…」
折角の準備物が無駄になったときのもの悲しさは、きっと誰にも分からないだろう。シーリン曰く『分かりたくない』の方だそうだが。
「…ちなみに、料理済みですか?……ナマ、ですか?」
「もちろんナマよ?」
「…そうですか……」
かなり戦慄を覚えている様子のアレルヤに首を傾げながら、三段階目…つまりカブトムシを食べることになった数人のことを思い出す。誰も彼もが涙目だったのは良く覚えているが……そんなに驚くことだろうか。むしろ死罪の所をこういう軽い刑罰で済ましているのだから、喜んでもらって然るべきだと思うのだが。
だが……やはり、暗殺が為されなかったのは護衛の人々が頑張っているからだろう。
特に、一時期だったが雇い入れたあの用心棒は強かった。茶髪で、白い肌で、銃を持っていた男性。名前は確か……
「ライル、だったかしら…」
「…え……」
「用心棒に来てくれた人の名前よ。ライル…次はえっと…」
「ライル・ディランディ……」
呟かれた言葉にあぁ、そうだったと思い、良く知っていたなとアレルヤの方を見る。
そして、マリナはどうしたらいいのかと慌てることになった。
オッドアイの青年は、顔面蒼白になっていたのだから。