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昔は、1+1=1だなんて、そんなことを思っていた。
そしてそれは、自分たちにとっては常識だった。
「…テメェもそうじゃなかったのかよ」
「そうだった……っていうのが正しいな。もう俺とあの人は綺麗に別モンだよ」
「過去形か…何がテメェを変えた?」
「分かり切ってることを訊くなって」
『あの事』が原因だよ、と。
そう言って目の前の男は軽く肩を竦めた。
「逆に言うと、あれ以外に理由なんてないな。あれが最大にして唯一の理由だ」
「…言っとくが、あれはお前の独断だ。アイツに非はねぇぞ」
「分かってる。けど、アイツもそう思ってるとは思えないぜ?」
「それこそ分かり切ったことだろ」
問題はそこではない。それを踏まえて、こちらが何を行うかなのである。
自分は彼を護る。では、彼はどうなのだろうか。
まぁ、これは全て『思い出している』ことを前提として話している。実際は間違いなくそんなことはなく、結局は杞憂で終わるのかも知れない。けれども、可能性が僅かでも残っている以上は……放っておく気にはなれなかった。
「利用しようとは思うんじゃねぇぞ」
「さぁね?結局は状況次第だ。それ次第では、俺はいくらでもアイツを利用してやるさ」
「本ッ当…テメェのそういう所、昔から気にくわねぇよ」
「そうか?俺はお前が嫌いじゃないけどね」
「嘘付くな」
一刀両断。そんなことがあるわけがない。
あったらもう……それは奇跡だ。
同族嫌悪ではなく、自分たちは話が合っても馬が合わない。
つまりはそういうこと。仕方のないことなのだ。
しかし、それでも話が合うことは事実。だからこそこうやって、二人で街角で、顔を付き合わせても普通に話しているワケだが。傍にいる小さな人形…らしいのは、一応カウントから除外する。話に加わってないので。
「ま、あの時は俺もカッとなってたしな…人間、熱くなると何するか分かないな」
「熱かった、だぁ?テメェは終始、冷静だったじゃねぇか」
そう。
引き金を引いたときも、後も、ずっと。
「テメェは自分のやることを理解してた。したうえで、行動した。別にしなくっても構わなかったんだぜ?そんときゃ、俺が同じ事をやってただろうしな」
「なのに俺は止まらなかった……か。仕方がないだろ?俺が先に知っちまったんだから」
「そこだ」
と、自分は、彼の顔をジッと見た。
そして、重々しく口を開く。
「そこが、アイツの最大の失敗。誰より先にテメェに話したこと」
「お前には言えなかったんだろ。事情が事情。過去に帰って欲しくなかった、と」
「俺と…もう一人の身内が失敗したのは、アイツより先に気づけなかったこと」
「そして俺は……行動を起こしたことが失敗か。じゃあさ…『あの人』は?」
何も失敗してないのか?
これこそ『分かりきったこと』だというのに、彼は問いかけた。
「…あいつは、何も知らなかったことが失敗だ」
「最後の最後まで、本当のことは何も知らないもんな…あの人だけ。あ、というか一つ」
「何だよ」
「お前、どうして記憶戻ってんだ?」
「……今更だなァ、オイ」
今更過ぎて、思わず呆れた。