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呼び鈴の音に玄関のドアを開けば、見覚えのある赤と青の頭、全く知らない二人の少年少女と……同居人にして仕事のパートナーである彼がいた。ただし、彼の方はかなりボロボロの状態である。
メンツを見る限りでは何があったか、想像するに難くないのだが…そうすると、やっぱり後ろにいる二人の少年少女が気になるというか。
にしても、一体何が…?と訝しく思っていると、ずい、と青い髪の持ち主……トリニティの次男、ミハエルが伸びているコーラサワーをこちらへ差し出した。丁度猫のように持っているのだが、身長の関係でその……コーラサワーの足が地面について、引き摺られているのは気付いてはいけない箇所だろうか。
とりあえず彼を受け取って玄関口に寝かしておき、改めて唐突な来訪者四名の方へと視線を移す。
「パトリックを倒したのは君たちだろうが…運んでくれたことには礼を言う。それで…君たちは、私の所に来るということがどういう意味を持つか、ちゃんと理解しているのか?」
「してるしてる。だから今すぐ逃げよっかって考ええてたとこ」
ねー、と二人で頷き会うトリニティの次男と末っ子を見て、思わず眉間を指で揉みほぐす。どうして彼らは……狩人を目の前にして、しかも都の中だというのに、ここまで警戒心が無いように見えるのだろうか。
溜息を吐いて、まさか…と、とある事柄が頭に浮かぶ。
それは有り得ないだろうと思いつつ、それでも確かめなければと思って口を開いた。
「ここに来た理由はパトリックを連れてくる…それだけか?」
「うん。放っておくのもアレだったし」
「言っとくが、最初はそいつが突っかかって来たんだからな」
「ミハ兄、けどキッカケ作ったのは私だよ?」
「乗ってきたのはアイツだろ?あと、ネーナはわざとじゃなかったし」
「そっか!じゃあ悪いのはアイツだね!」
キャッキャッと話す二人と、後ろで何とも言えない顔をしている二人を見て、ようやく確信を持つことが出来た。現実を受け入れることが出来たとも言うが……この二人、何も考えずにここに来たらしい…狩人が多く住む、この地域に。
よくもまぁ…と、呆れるばかりだ。トリニティ三兄弟といえば狩人の間では有名で、しかもその有名さが悪い方に発揮されている対象。今まで行ってきた数々の行いのせいで、狩人たちのブラックリスト、その一ページ目に全員の名前が記載されているような異端なのである。
それが、何の警戒も…ということは無くとも、殆ど警戒を抱かず、ただコーラサワーを届けるためだけにここに来た。そして、ここに届けに来たと言うことはつまり、二人はここが狩人の住む場所であると知っていると言うこと。
どこか、何かが変わったのだろうか?でなければ、少なくとも自分が知っている彼らならば、ここには来ない。何よりコーラサワーを届けようともしない。
暫く見ないうちに、何か色々と変わったようだ…良い方に。
何とも言えず感慨を覚え、通りの向こうに歩く影を見つけた。
あれは狩人……しかも極度に異端を嫌うパターンの狩人、その一人。
そう見定めて、玄関のドアをもう僅かに開く。
「入れ。茶くらいなら出してやらんこともない」
「…え?どういう風の吹き回し?」
「それはこちらが訊きたいんだが……そこも、茶を飲みながら話してみるか」
「あの…僕らは」
「構わん。どうせトリニティの連れだろう?」
…馬鹿なことをしているとは思う。これは異端を庇う行為で、決して狩人が行うような事ではない。
けれど後悔はない。変わったらしい二人と、その連れに興味が出た。少し話したい。
クッキーか何かがあったはずだが…と、台所状況を思い出しながら、全員が入った頃を見計らって、マネキンは玄関のドアを閉じた。