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起きれば、そこは暗い小部屋だった。
ゆっくりと起き上がり、ティエリアは辺りを見渡した。
……ここに至るまでの経緯が、全く持って分からない。それはティエリア自身が薬物か何かで眠らされ、強制的に拉致られて来たことが何よりの原因だろう。したがって、この場所が一体どのような場所なのかさえ分からない。
所々には無惨に壊されたであろう機器。
壁際には人が入りそうな大きさの円柱の水槽。
床に走っているのは色々な色のコード。
ここが何かを推測するための材料はこれだけしかない。
逆に言えば、これだけ材料が提示されているワケなのだが。
とりあえず……何らかの研究施設なのは理解した。むしろそれ以外だったら何だ、という勢いの内装だが。無理矢理その他の例を挙げるとすれば水族館だろうが……こんな物騒でこぢんまりした水族館、誰も足を運ばないだろう。
さて、こうしてここが研究所であることは十中八九間違いない、が。
問題は、何を研究していたかである。
先の通り、ここは酷くこぢんまりしている。小さな部屋だ。
そこにこれだけの水槽を立てるのは……正直、住み心地の良い空間をみすみす逃している物だと、ティエリアは思う。いや、研究所にそんなものを求めても意味は見いだせないのだろうが。
だが、密集しすぎなのは残骸からでも分かった。
こんなに小さな部屋に詰め込んででも秘密裏に……という実験対象だったと考えるべきだろうか、それとも取るに足らなかったために追いやられたのだろうか。
どちらでも構わないかと、ティエリアは首を振った。問題はここがどこか、そして宿に帰れるかどうかである。
『帰れないよ』
そんな時、頭に声が響いた。
聞いたことのない声に不審の念を抱き、そして困惑する。
何故か、懐かしい感じも覚えていた。
「お前は…」
『誰だっていいじゃないか。それよりも、今は君のこと』
クスクスと笑いながら、声は言う。
そしてティエリアは、その声に黙って耳を傾けた。
『ハッキリ言うと、ここからは逃げられるよ。比較的簡単に』
「ほう…?」
『けど、ここにいた方が良いと思うけど。だって…君の仲間たちが、明日にはそこの近所にやってくるんだよ?すれ違った、じゃ笑い話にしかならないじゃないか』
その声曰く、明日はこの場所の近所にある博物館で、珍しい杖の展覧会があるらしい。その杖の奪還作戦というものが、色々な場所で色々なヴァリエーションを持って存在し、そして、それに自分の知り合いが少なからず巻き込まれていることも。
『さ、どうする?出ていくのなら止めないよ』
「……そこまで言われて出て行くわけがない。行けるわけがないだろう」
『ふぅん…それが君の答えか…』
「不服か?」
『まさか。生まれたての時よりも素直で良いと思うよ』
クスリという笑みを残し、声は遠のいた。