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「本当にここ、なんだろうな…」
「俺はこの辺りだっつった。で、コイツがここだって断定した。ってことはつまり、合ってんじゃねぇのか?俺の勘は外れるわけねぇから、違ったら全部コイツのせいだ」
「ハレルヤ、それかなり酷い理屈だけど!?」
叫ぶケルディムの頭をはいはい、とばかりに軽く叩いて、ライルは目の前の建物を見た。
俗に言う、倉庫、という建物を。
自分の記憶違いでなければ、たしか……ここは最近は使用されていないハズだ。だからこそ、どこからともなく突然に誰かが現れても、全く騒ぎにならなかったのだろう。場合によってはきっと、ハレルヤは今より簡単に片割れを見つけ出しただろう。彼の勘と、色々な場所から入ってくる情報によって。
しかし、騒ぎにならなかったのは行幸といえるのだろう。アレルヤは人にあらざるモノ。人間たちにとっては『敵』なのである。たとえ本人に戦う意思、傷つける意図が無かったとしても、一方的にそうやって決めつけられてしまう。
にしても……
建物まわりの様子を見渡して、ライルは深々と溜息を吐いた。
「何で、よりによってこんな場所に…なぁ?」
「…煩せぇ。無駄口たたくんじゃねぇよ」
同意を求めるように話し掛けてみれば、不機嫌そうにハレルヤは顔を逸らした。
先ほどまでは普通な状態だったのだが……無理もない。場所が場所だ。
「ライル、ハレルヤなんか機嫌が急降下してんだけど…」
「気にしてやるなって、な?」
「……ま、お前が言うなら別に…」
「よくできました」
ニッと笑ってやると、軽く足を蹴られた。地味に痛い。
仕返しにと恨みを込めた目で見てやったのだが……堪えた様子もなく、こちらを見る様子もない。背丈に合わせてお子様扱いをしてみたのだが、どうやらそれが気に入らなかったようだ。生きてきた年数は自分より上だと言うし、まぁ、予想の範疇ではある。
やれやれと肩を竦めて、再び目の前の、外界と内部を隔てている扉へと視線を向ける。鍵は……掛かっていないようだ。使っていないのだから貴重品もなく、物を盗られる心配もないのだから、付ける必要性は確かにない。
さて、この扉は自分が開けてしまっても良い物なのだろうか?
ほんの数秒考えて、ライルは首を振った。自分がやるべきではない。
やるのなら、ハレルヤだ。
ライルは未だに、もしかしたらアレルヤを利用する可能性を持っているし、ケルディムの場合は縁も何も無いのだ。ならば、純粋に片割れを探しに来たハレルヤに、この扉を開く役目は渡すべきだろう。
だが……少し、迷っていた。扉を開ける役目を譲ることに、ではない。そんなものはいくらでも、このブラコンに譲ってやる。
思っていたのは、自分が『アレルヤを利用できるかどうか』である。
扉の向こうに彼がいるかと思うと……何だか、今まで絶対に間違っていないと思っていたことが、本当に出来るのだろうか?…という、疑惑を多く含んだ事柄になっていく気がする。自分のやり方だけでは目的を達成することが出来るか分からない以上は、彼を利用しなければならないのだが。
どうしたもんかと悩みながら、ライルはとん、とハレルヤの背中を押した。
訝しげな目を向けてくる彼に、一言。
「いい加減に開けって。俺よりお前の方が適役だろ?」
「変な気、回してんじゃねぇよ……ったく…テメェがそういう態度とんの、何か凄く不安になるんだけどよ…」
「信頼されてないねぇ」
呆れたように息を吐けば、彼はフッと笑みを浮かべた。
そして手を、扉に掛けた。