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カタロン方面も大変なことになっているので、とにかくほのぼの…?を。
マリナ様も誰も彼もが元気です。
…元気すぎるかもしれませんが。
03.白球
「ねぇ、マリナとクラウスを知らない?」
「知りませんねぇ……どうかしたんですか?」
「いえ…姿を見ないから、少し気になっただけ。気にしないで」
ありがとう、とカタロンの構成員の一人と別れて、シーリンは基地の廊下を歩いた。
全く、二人ともどこへ行ったのだろう。マリナの場合は行動範囲が絞られるからいいものの、クラウスだとそうはいかない。探索は大変なことになりそうだ。
そんなことを思いながらシーリンは子供たちがいる部屋のドアを開いて……
瞬間、ヒュンと直ぐ横を白球が通り過ぎていった。
「……!?」
どういうことかと、慌てて前方の様子を確認する。
部屋には一台の卓球台があった。周りには子供たちもいて、完全に見物人モードである。いつも子供の世話をしてくれている女性は点数係になっていて、そして……対戦をしているのは、シーリンが探していた二人だった。
「……貴方たち、何をやっているの…?」
丁度スマッシュを打ち終えたときのような格好をしているマリナに向かって呆れたように溜息を吐いてみせると、あぁ、と彼女はニコリと微笑んだ。
「シーリン、どうかしたの?」
「それは私が訊きたいの。何で貴方とクラウスが卓球の試合をしているのかしら?」
シーリンはこう言って、再び溜息を吐いた。
それは……紛うことなく本心だった。何がどうしたらこの状況になるのかが、こちらでは全然想像もつかない。マリナはともかくとして、何でクラウスまで……というのが正直な感想である。
しかし、マリナもクラウスも試合の方に意識を向けてしまったようで、こちらの声など到底……届いてはいないのだろう。何とも言えない。
仕方なく得点係をしている女性に訊いてみようと顔を向けて……固まる。
それは、スコアのせいだった。
マリナは9。そこは良いとしよう。どれほどの時間を卓球に費やしているかが分からないから、別に不思議でも何でもない。訊いてみて、その時初めて不思議だったら不思議と思えるのだ。
ただ、問題はクラウスの方の点数。
……さすがに、2、というのはどうだろうか。
見たところ、マリナもクラウスも互角の戦いをしているようだ。よく白いピンボールに追いついていっていると思う。
それがどうして、七点差になるというのだろう。
だが……その疑問は直ぐに氷解した。
マリナが返した球を、クラウスが捌ききれずに高く上げてしまったのだ。
それを見て移動し、静かに右手を挙げて体を捻るマリナ。スマッシュを打とうと、そういう準備のようだ。
そして結果。
思い切りだろう、放たれたボールは綺麗にクラウス側のコートに入り、そのまま勢いよくシーリンの頬の横約5㎝の所を通って廊下の壁にぶつかった。
「……これで後がないな…」
「えぇ。……最後まで全力でいかせてもらいます」
「望むところだ…と言いたいですが、出来れば少し手加減をしてくれないでしょうか?」
「遠慮します」
ニコリと微笑んでマリナが言い、クラウスが静かに身構える。
つまり……予想以上にマリナが強かったと、それだけのことなのだろう。
とりあえず室内に入ったシーリンは、ドアを閉めて観客となっている子供たちの所へ向かい、座った。あと一点で試合の決着は付く。今は何も切羽詰まった事態は無いのだし、ならば少しくらい遊んでも良いだろうと考えての行動だった。
カコンカコンと鳴り響く音を聞いていると、ふいに、隣にいた子供がニッと笑った。
「マリナさま強いんだよー」
「あら、そうなの?」
見れば分かることだったが、そうは言わずに相づちを打つ。魅入ってしまっている子供たちの感情に水を差す気はない。
だから聞き返すと、彼は笑ったままで嬉しそうに言葉を続けた。
「あのねー、点取られたのって、マリナさまが失敗したときだけ、なんだよー?」
「…あぁ、だから二点なのね…」
納得しながら、というか納得せざるを得ない現状の中で台を眺めていると、バウンドした球がクラウスの顎に当たるのが見えた。
こういうのも楽しいかなぁとか…実際はどうだろう。やっぱりクラウスさんの方が強いかな?シーリンも強いと思うけれど。
というか、この小説の中で一番の苦労人は、スコアを付けてる女性だと思う。