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「落ち着いたか……?」
「あぁ。すっかり寝ちまってるぜ」

 気絶している人形二人は相変わらず沈黙を守り、屋敷に行った四名は未だに帰らず、気を失ってしまった片割れの傍にハレルヤとライルは座っていた。

 口の端に付いていた血を拭ってやって、今は穏やかに眠っている片割れの姿を見る。
 一体、何が起きたというのだろうか。昔にこんな症状が出たことは無かったし、持病は無いはずだ。外部からの干渉……というのも考えにくい。その場合は、アレルヤは例外はあるだろうが、ちゃんとハレルヤに伝えてくるはずなのだ。

「ったく……何だってんだよ…」
「それは俺が訊きてぇ。ライル、テメェは何か思い当たることねぇか?」
「お前になくて俺にあるわけ無いだろ?」
「……チッ…手がかりも無しかよ…」

 彼の受け答えを苛立たしく思いながら、何があっただろうかと考え……普通と違ったことがありすぎたと溜息を吐いた。問題が一段落付いたのは、つい一昨日のこと。原因があるとしたらその中にあるに違いなかった。

 手がかりが見つかったのは幸いだが、見つかり過ぎも困った物ではある。どれが原因なのかが見分けが付かない。自分にどうしろというのだろうか。

「あー、けど…」
「何だよバカライル」
「バカは余計だっての…じゃなくて、何かさ、さっきのアレルヤの様子?ずっと前に見た、投薬の時の拒否反応に似てる気がしてな」
「拒否反応だと?」

 思わず聞き返すと、間に受けんなよ、とライルは肩を竦めた。ただ思いついただけだと。
 だが『拒否』という言葉にハレルヤが得た物は、確かな悪寒と、とある仮説だった。

「拒否するとしたら……アレくらいしかねぇ…か?」
「ん?心当たりでもあるのかよ」
「アイツから一時的に取ってた『狂気』的な感情?あれを戻した」
「……それで拒否はないだろ…」

 その通り。それで拒否が起こることはない。
 何故ならそれは不自然を自然に戻すことで、不自然の状態に何かがある場合はともかくとして、自然の状態で何かが起こるのは妙な話であろう。自然というのは『それで当たり前』ということであり、拒否など起こるわけがない。

 だが、もしもそれが事実だとしたら……片割れが取り戻した片割れの一部分、それによって拒否反応が起こってしまったのだとしたら。
 だとしたら……

 それは。

 そう思いつつも、ふと視線を片割れに向けて……違和感に眉をひそめた。
 気絶して、寝ている片割れ。しかし、どこかが変だ。

 何が変なのかとじっくり目をこらし、分かった。
 無い。


 心が、抜けている。


「……なっ…!?」
「ん?ハレルヤ…どうした?」
「何で…だ…?」

 見たところ、抜け出たのはしばらく前。
 こんなに近くにいて、どうして今まで気づけなかったのだろうか。物質でなく精神…まさに『心』などというモノは、完全に自分のテリトリー内のモノであるというのに。

 何かが、それもとてつもない何かが変化した。そして、している。
 それを、ハレルヤは感じずにはいられなかった。
 

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