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屋敷に戻ったソーマたちが…いや、人形たちが真っ先にしたのは、隠れること、だった。
何故なら、屋敷に『来訪者』がいたからである。
ミレイナ・ヴァスティという名の。
彼女とはしばしば交流している。たまにアレルヤをイアンの家に迎えに行くのだが、そういう時に出会う事もあった。だから互いに顔も名前も、ある程度は性格も把握している。
そして彼女もこちらに気付いたのか、目を丸くして駆け寄ってきた。
「あれ?ピーリスさんがいるです?」
「私は忘れ物があったので取りに帰ったんです」
「なるほどー、です…ピーリスさんの力って便利です!」
あながち嘘ではない言葉を返せば、それで納得してくれたらしい。
何度も何度も頷いているミレイナを眺めて、ソーマは急に疑問を覚えた。いや、急に……というのには語弊があるだろうか。先ほどからずっと考えていたことで、それが今、明確な形を持って自分の中に存在し始めただけだから。
「ミレイナ……貴方、何故この屋敷に?」
「それが……分からないです…」
「分からない?」
それはどういう事だろうか。
ワケが分からず首を傾げていると、ミレイナは困り顔で言葉を続けた。
「少しこっちに来てみようかなって思いはしたです…けど、思った瞬間にこっちに来てたです。何が何だかサッパリです…」
「思った瞬間に……?この街には、誰か瞬間移動系の能力を使えるヒトがいるのですか?」
「全然いないです……だから分からないです…」
「そうですか……」
確かに、それはおかしい。何の理由もない現象など、どこにだってあるわけがないのだ。
何の理由もないというのは……超常現象に見えても、実は異端が遊んでいただけ、という事が多々あるこの世界では有り得ないだろう。異端のせいでなくても、自分たちの遠く及ばないどこかにいる誰かが、勝手に色々とやってくれているとも考えられるのだから。
でないと説明が付かない。
突然に人間が、魔族になるなんて。
「……とりあえず、原因の方は置いておきましょう。手がかりがなさ過ぎます」
「同感です!…ところでピーリスさん、忘れ物って何です?」
「ハロです。置いて行っていましたが……」
「取りに来ることにしたですか。…あ、さっきHAROなら台所のほうにいたですよ?」
「本当ですか?」
「はいです!」
元気よく首を縦に振る彼女を見て、ちらり、と視線を柱の影に向ける。
そこに隠れていた三人の人形はそれぞれがこくりと頷いて、ソーマが壁に沿ってこっそりと開いた裂け目の中へと入っていった。行く先は当然、台所である。
全員が行ったのを確認して、裂け目を閉じたソーマはミレイナの肩をポンと叩いた。
キョトンとしている彼女に、フッと微笑みかける。
「こんな所での立ち話も何ですから、家に戻りましょう。突然飛んだのでしょう。なら、きっと心配されてます」
「あ!パパのこと、すっかり忘れてたです!」
「……それは酷いんじゃ…」
「大丈夫です!言わないです!」
「……そういう問題ですか…?」
色々と物言いたいことはあったのだけど、とりあえず、人形たちの行動の妨げになるので、彼女には早めに屋敷から出てもらうことにしよう。
ミレイナの背中を押して、ソーマは歩き出した。
けれど、その足は直ぐに止まった。
自分とミレイナの目の前に、白い髪で金の瞳の少女が立っていたから。