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暗い裏路地を黒い影が歩く。
重い体を引き摺るかのように。
ずるり、ずるり、と。
黒い影は子供の背丈。長すぎる緑がかった黒髪は地につくほど。
そしてボロボロになりすぎた黒いコートは、最早、使い物にはなりそうになかった。
そんな状態で、子供は歩く。
ずるり、ずるり、と。
行く先も決まっていないのだろうその歩みは、しかし、目的があるかのように進む。
迷いがあっても後悔のない歩みは、どこまでも続く。
そんな子供の前方方向、曲がり角から一つ、別の影が現れた。
子供と違って、相手は長身だった。背丈から、青年だろうと推測される。
その青年は、ニコリと笑った。
笑って、一歩、踏み出した。
歩いていた子供は、微かに震えた。
怯えて、一歩、後ずさった。
金と銀の目に恐怖を浮かべる子供の前に、青年は立つ。
子供の背後にはいつの間にか壁が現れていて、もう、逃げられない。
しばし、両者の間を沈黙が流れる。
そして、その沈黙は破られることがなかった。
青年は何も言わずに笑ったまま、ゆっくりと右手を持ち上げた。
子供は何も言えずに震えたまま、怯えてビクリと体を震わせた。
青年はそんな子供に、安心して、という様に笑んで見せ。
とん、と。
軽く額に触れられた子供は一瞬目を開き、そのままグタリと倒れ込んだ。
気絶した子供を受け止めた青年は怪しく笑い、子供の体を持ち上げて微笑む。
「解せない」
そんな青年の背に投げかけられた言葉。
それを発したのは、別の青年だった。
その青年は腕を組み、壁にもたれ掛かって言葉を続ける。
「何故、そのような子供を……」
「そのうち分かるさ……あぁ、そうだ」
「…?」
「名前」
この子の名前を君が付けてくれる?
青年は笑い、もう一人の青年はそれを受けて口を開いた。
発せられた単語は、祈りの言葉。