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「成る程……原因は不明、か」
「あぁ」
少しの間、話し合ってみて理解できたのはそれだけだった。手元にある、思考を行うための材料が少なすぎるのだ。
溜息を吐いて、廊下の壁から背を離す。
「こうなると……私たちがおかしいのか、彼らが変わったのかさえ分からないな…」
「俺たちは、」
「間違ってないのは分かる。ただ、それも主観で見て、だ」
客観的に見れば、あるいは……
そう思い、ヨハンは眉をひそめる。
客観で見ると言うが……一体、どうやったら『客観』となるのだろうか?
影響を受けているのが彼らだけとは言えない以上、誰かに聞くことも出来ない。影響を受けていないのが自分たちだと断言できないのだから、どうしもうもない。
どうしようもない……本当に、どうしようもない。
この状況の不透明さを打破する方法が、どこにもない。
「…分かっていることを確認しよう」
「俺たちはアレルヤを覚えている」
「彼らは覚えていない。そして、彼が抜けた箇所の記憶は修正が施されている」
「奪うだけでなく書き足す……そんな力が、異端の力の中にはあるのか?」
刹那に問われ、ヨハンは手を顎に当てて考え始める。
自分の知る中には無いが……世界は広く、異端は何人もいる。無いとも断言はできないだろう。そう判断しながら首を振った。
「私の知る限りでは無い」
「まぁ…異端の力で無いのは分かっている。俺には異端の力に対抗する力があるからな」
「あぁ、そういえばそうだったか…」
彼の力はヨハンも目の当たりにし、さらには経験までしている。だから、それは疑いの余地は無い。異端の力、という線は消すべきだろう。考える必要もなかったワケだ。
となると、どうして自分がそのままなのかは分からないのだが…。
「我々が変化していた場合、原因は異端の物ではない、と。現状は例の『月代』という存在か、あるいは君たちのような存在の手によるものか…そのどちらか、ということか。ただ、彼らが変わっていた場合は、異端の力も含まれるのか…」
「……違う。異端の力については除いて構わない。異端の力による物ならば、マリナがあぁなるワケがない」
刹那はそう言って、理解しがたいという表情を浮かべた。
そんな彼を見て、どういうことかとヨハンは訝しんだ。あの女性もまた、刹那と同じような力を持っていると、そういうことなのだろうか。
しかし、訊けば首は横に振られた。
「違う。マリナには『お守り』がある」
「君が今も付けている、あの首飾りのような……か?」
「あれのオリジナル…国宝だ。あれがあれば、現状は有り得ない」
刹那曰く、その首飾りにはあらゆる外部からの干渉を遮る能力があるのだそうだ。
便利な物があったものだ…と呆れつつ、だが、ヨハンは溜息を吐いた。
「確かに異端の線は無い…だが、先ほど上げた例にしろ、範囲が広すぎて分からないな…」
「…もう一つ、能力の方に心当たりはある。ただ、」
そこで言葉を止め、数秒後、刹那は再び口を開いた。
「もしそうだった場合、俺にその力を避けることは出来ないし、そうなると彼が俺たちだけ別な理由が分からない。それに……俺が話して良い内容ではない。時期が来たら、どうしようもなくなったら、話す。それだけは約束する」
真摯な表情。
それを見て、彼が嘘を言っているのではないと知り、頷く。
「分かった。ならば、その時が来ないことを祈ろう」