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子供が目を開いたのを見て、ティエリアはパタンと本を閉じた。
そして何気なしに眺めていると、ボウッと視線を彷徨わせていた子供と偶然に目があって……子供は、微かに笑った。
だから、思わずティエリアも微笑み返した…のだが。
「へぇ……ティエリア、君が笑うなんてね」
「……生憎だが、俺も生き物だからな」
「分かってるよ。全く…冗談が通じないなぁ」
「冗談じゃないだろう」
はう、と溜息を吐いて、部屋に入ってきた自分そっくりの青年……リジェネの方へと視線を向ける。起き上がった子供の、伸ばされた手を握りながら。
紅茶の入ったカップ三つと、カップケーキがいくらか載っているトレイを持っていたリジェネは笑いながら、ティエリアの直ぐそばにあったテーブルの上にそれを置いた。
「仲が良いねぇ……何よりだよ」
「…何だ?」
その言葉の中に、決して言葉通りのニュアンスが込められていないのに気付いて、ティエリアは軽く片方の眉を上げた。
しばしの後、どういうことかと分かってニヤリと笑う。
「嫉妬か」
「……悪い?」
「さあな」
不機嫌そうなリジェネの持ってきたクッキーを一枚ほど手に取り、子供へと差し出す。
キョトンとしていた子供だったが、とりあえず食べて良いのだと分かったらしい。怖ず怖ずと、だがクッキーを受け取った。
ティエリアとリジェネが見る中で、じっくりとクッキーを眺め、そして。
はぐ、と一口食べた。
「ティエリア!食べたよ!」
「見れば分かる……というか、何で君はそんなに嬉しそうなんだ…」
「だって嬉しいんだもの!あ、僕からもあげるよ。はい」
楽しそうにリジェネが差し出したクッキーも受け取られ、さらにニコニコ顔になる彼から視線を外し、窓に切り取られた外の風景を見る……といって、見えるのは緑色の葉っぱに、青い空くらいのものだったが。
「決めた!僕、今日からこの子と一緒に眠る!」
「キングサイズのベッドで問題はないが……嫌がられないのか?」
「大丈夫だよ。ねー?」
笑いながら言うリジェネを金銀の目に映して、彼の話の内容が分かったのか解らないのか……ニコリと笑い返して、ギュッとリジェネの手を握った、が…何か気に入らない。
再び本を開き、視線を落とそうとしたところで、リジェネの声が耳に滑り込んでくる。
どこかイタズラな響きを持って。
「嫉妬?」
「……フン」
「素直じゃないなぁ」
クスクスと笑いながら子供の手を上げたり下げたりして遊ぶ様を見て、ふと、ティエリアは首を傾げた。
「そういえば、この家は?さっき、最近手に入れたと言っていたが」
「あぁ、ちょっと家主さんを殺して貰った。良い感じに大きかったからさ」
さらっと答えるリジェネに、ティエリアも何も思うことなく読書を再開する。
無言で続きを促してから。
「えっと…たしか、パーファシーって家だったかな?」
「…パーファシー?」
その言葉にティエリアは引っかかりを覚える。
聞き覚えがあるような気がしたが、考えてみても何も出てこなかった。