Another Story （00） 第十三話：メメントモリ攻略戦

今回はケルディム＆ハロの話です。
ライルとニールと『ロックオン』って、結構複雑ですよね。

---

　その言葉を……正確にはその呼び名を彼らの口から聞いた瞬間、胸の中に溢れたこの思いは何なのだろうか。感動と言い表すには別の感情が混ざりすぎているし、違和感と言って良いほどの奇妙さはない。戸惑い、それも違う。自分はちゃんとこうやって、その言葉を受け止めているのだから。
　おそらく、これはたくさんの思いが入り混じった感情。複雑な思い、という物の具体的例なのだろう。
　あぁ、と少し笑う。彼がこの場所に来てから……たったこれだけの期間で、彼は皆に認められるまでになったのか。二代目、という点で彼はとても苦労しただろうに、それでもしっかりと、認められるまでに。
　それ自体は喜ばしいことだ。祝うべき事だ。
　けれども、その名前は。
　笑みは曇り、自然と呟きが口から漏れた。
「ロックオン……か」
「ケルディム、」
「分かってる。これが当たり前の状態だろ？」
「……そうだよ」
　何か、物言いたげな、しかし言葉の見つからないような様子で、ハロが呻く。いや……呻くとは違うかも知れないが、少なくとも、自分にはそれに近い物であるように思えた。ハロもまた、ケルディムと同じで『複雑な思い』を抱いているのだ。
　彼も自分も、一代目を知っている。一番最初の『ロックオン・ストラトス』を知っている。それは、他の仲間も、人間も、誰も彼もが殆ど一緒だろう。
　だから、彼らが認めたのなら。ならば自分たちも認めなければならないのではないだろうか？意思の疎通が出来たけれど出来なかった自分と違って、彼ら人間やハロは疎通が出来た。ならば、そんな彼らが下した判断や結論に、自分以上の間違いなど無いのではないだろうか？
　思う。そう思うが、だが、心は納得してくれない。
　別に名を継ぐに相応しくない、なんて言うつもりはない。今のマイスターだって十分に努力を重ねている。射撃の練習を続けていたことを自分やハロは誰よりも知っているし、非道な行動に激高した彼の姿を近くで見てきたのも自分たちだ。彼に、自分に乗る資格がないとは言わないし、名前だって彼以上に継ぐに相応しい人間もいないだろう。
　分かっている。分かっているのだ。
　分かっていても……心が納得できないだけで。
　勝手に違和感を叫んでいるだけで。
　それだけのことなのだ。
　だけど、それ程のことでもある。
　板挟みとは、こういうことを言うのだろうか。自嘲気味に思う。いい加減に、こちらからも彼を『ロックオン』と呼ぶべきなのではないか。
　何て無駄な葛藤。
「ねぇ、ケルディム」
　思考の袋小路に陥っていると、ふいに、優しげな声音が語りかけてきた。
　無言のままに続きを促せば、言葉が続く。
「あのね、今、無理に答えを出す必要はないと思うけど？」
「そりゃ……」
「分かってるんだろうね、その言い方だと。だけど、理解はしてない気がするよ？」
「……まぁな」
　あそこまで全員が認めていると示されれば、流石に……今決める必要がないと知りながらも、早く決めなければならないという義務感に襲われる。仕方がないことだと、割れながらに思う。
　ハロの言うとおり、今、絶対に決めなければならないというわけでないと、それも分かってはいるけれども。
　少しだけ、苦笑する。
「何か、毎回毎回お前に励まされてるな……ところで、お前はどうなんだ？」
「え？」
「だから、『ロックオン』って呼べるかどうか」
「っとね……」
　言いにくそうに、ポツンと。
「……無理っぽいかな」
「オイオイ…」
　そんな状態で自分を励ますのか。
　らしいといえばらしいけれど、何とも言えない感がある。
　しかし、まぁ。
「今、決める必要はないんだろ？ならいいんじゃないか？」
「……かな？」
「だろ」
　答えながら、皆の兄貴分だった彼ではなく、新しく仲間となった彼の方を思い浮かべながら、心の中で『ロックオン』と呼んでみる。
　まだ、違和感は拭えなかった。

---

生死を誰よりも共にしてきてる二人なので、やはりまだ…という感じ。
難しいよ…ライルとニールと『ロックオン』の関係は。