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　何も分からなかった。
　何にも。一つも。
　分かる事なんて、何もなかった。

　何かを忘れているような気はする。
　何かがおかしくなっている気もする。



　ただ、それが何なのか分からないだけで。



　そもそも、自分とは何だっただろうか。
　傍に、いつも誰かがいなかっただろうか。

　分からない。
　分からない。
　分からない。

　何も分からない。
　どうして分からないのだろうか。

　分からない。
　本当に分からない。

　何で。
　何で、どうして。


　何で、あのヒトが怖いと思うんだろうか。


　優しく笑っているのに。
　楽しそうに笑っているのに。
　実際に優しそうで、楽しそうなのに。

　何だか、怖いと思ってしまうのは、何でなのだろう。


　警鐘が鳴っている。頭の片隅で。
　彼の傍にいてはいけないと、警鐘が。
　彼の傍においてはならないと、警鐘が。

　どうして傍にいてはいけないのか。
　何を傍においてはいけないのか。

　何も分からないのに、警鐘だけは鳴り響く。


　だから逃げる。
　だから抜け出す。

　それでも、帰る場所はあそこしかない。
　だからこそ結局、戻ることになる。

　戻ってみれば、やはりそこは暖かく、居心地が良い。
　穏やか何かに包まれる。

　それでも、心の片隅に警鐘が。



　早くそこから逃げろと、警鐘が鳴る。