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紫のお題13、14の続きの品です。先にそちらを読んでください。
ていうか、ふと、これってティエアレで良いんだろうかと本気で悩みました。
15．サヨウナラ
目が覚めて、一番最初に見えるのが白い天井ってのはどういうことかねぇ？てっきり俺は死んだんだと思ってたんだが。どうやら悪運が強かったらしいな、ここは多分、病院の一室だ。
ゆっくりと身を起こせば、腕に付いている点滴の針だとか、ゴチャゴチャと置かれた器具だとか呼吸器？そんな感じのヤツが口元に付いているのが、嫌って程に分かる。ったく、何だよこりゃ。俺は病人か何かか？いや、それよりタチが悪いモンだよな。重傷の怪我人ってのはよ。しかもそれが実の弟の手によってなんざ、冗談かって疑いたくもなるだろうさ。俺はいい加減に予測できてたから、それ程の驚きもなかったけどな。
そう、俺はあの事態を予測していた。
あのクソガキが俺の片割れにどんな視線を送ってたか、この俺が知らないわけがないだろ？アイツは、俺の片割れに好意を持ってた。それが単なる『好き』なのか『愛してる』なのかは、見極める前にこうなっちまったワケだが。どっちかといえば『愛してる』の方なんじゃねぇの？ただの『好き』だけで他人を突き刺したりはしねぇだろ、流石のアイツでも。てーか、そうだったらヤバイじゃねぇか。どんな気チガイだってんだ
さて、俺はこれからどうすっかな。
備え置きの花瓶に何も入ってないって事はつまり、俺の見舞客はゼロだったってワケか。いたとしても、最近はいなかったってことだ。ま、クラスにそれほど親しいヤツもいなかったし、これはこれで納得だ。俺の片割れは放っておくワケがない？当然だろ。けどな、アイツがこっちに来れる状況とは考えにくいんだよ。だから納得、だ。
何度も繰り返すが、俺をあのクソガキは刺しやがった。そういや右胸だったっけな、刺されたの。だから生きてたって事だとしたら、俺も大概しぶてぇな。
ともかくだ、そんなヤツが俺の片割れに何もしないでいられるワケがねーじゃねぇか。監禁か軟禁か知らねぇけど、一人で勝手に出歩けるような状況にはしてないと思うぜ。アイツ、独占欲は強そうだったからな。一歩でも境界線を越えちまったら、もうあとはどんどん堕ちるだけだろ？そういうわけで、何かされてると考えるべきなんだ。俺にとって、とてつもなくありがたくねぇことにな。片割れにもありがたくねぇだろうけど。
にしても、俺はどんくらい寝てたんだ？状態からして昏睡状態にあったのは間違いねぇよな。ってことは一時間とかそういうレベルじゃねぇ。新聞か何か置いてねぇな。あったら良かったのに。そこまで求めるのは酷だろうって、分かってはいるけどな。ったく不便だぜ。誰かが定期的に関節を動かしてくれてたのか、スムーズに動けるのは幸いだけど世。
点滴の針をむしり取り、口元に取り付けられていた呼吸器をはぎ取って、俺はベッドから降りて立った。あぁ、やっぱ結構時間はたってるみてぇ。全体的に筋力が落ちてる感じがする。普通に立っただけなのにフラフラするって、どんだけ病人チックになってんだよ、俺。どうしようもないとはいえ、少し情けねぇ。
病室出たら誰かいるか？いたら話を聞けるんだけどな。聞く前に逃げられるかもしれねぇけど。寝てたヤツが突然起き出して、病室から抜け出してるんだぜ？仰天もするだろ。
そういや、あのクソガキが捕まったとか考えてねぇよな。ふと気付いたんだけどな、俺はアイツが捕まるとか思ってないらしい。ハッキングまで出来るスーパー小学生は、どうにかして警察から逃れてると俺は根拠もなく確信してるらしい。ま、十数年暮らしてたら嫌でも分かるってか？
ガラリとドアをスライドさせて部屋から出たら、丁度誰もいなかった。これはラッキーってことで良いのかねぇ？誰に鉢合わせても、俺としては別に構わないんだが。
どこ行くかな。ここはナースステーションか、やっぱ。でもな、見つかって病室に連れ戻されるのも気にいらねぇ。ってことは何だ、鉢合わせがなかったのはやっぱり幸運ってことか。病院関係者に見つかったら間違いなく白い部屋に舞い戻ることになるし。てーと、こっそりと病院を出るのが最善か？んで家に帰ってみる、と。それはそれでかなりの自殺願望者だな。んなことしたら今度こそ殺されるぜ。
時間がないわけでもないし、どうしてやるのが良いのやら。適当に高校のクラスメイトの家に上がり込むか？特別親しいヤツはいなかったが、特別嫌ってるヤツもいなかったはずだ。それに、それは俺だけの話。俺の片割れはお人好しだったから、そーいうところが好かれていつも誰かが傍にいた。ソイツの家に上がり込むのも手だ。
そのこと、俺としてはちょっと気に入らなかったけどな。勝手に俺の片割れと一緒にいるんじゃないってな。こう見ると、あのクソガキの独占欲の強さって、もしかしなくとも俺から引き継がれてんのか。ンなトコを引き継ぐんじゃないっての。お陰で俺は死にかけたんだぜ。
んじゃ、行き先は茶髪の双子どもの家に決定だ。あそこの兄の方は俺の片割れ同様、あるいはそれ以上に世話焼きだ。突然上がり込んでも匿ってくれるだろ。ちゃんと説明はするぜ？そうしねぇと病院に送り返されちまうからな。そいつはゴメンだ。寝ていたときはともかくとして、今の俺は寝てる気分じゃねぇ。
そこで情報を収集して、体の方もどうにかして、それから乗り込んでやろうじゃねぇの。あのクソガキだけに俺の片割れを任してやれるかよ。絶対に取り戻してやるぜ、テメェの手から。実の弟だろうと何だろうと関係ねぇ。先に手を出してきたのはアイツだし、なら俺が何をやっても正当防衛だ。ちょっと違う気もするが、まぁ、心優しい俺は殺すとかは思ってねぇから良いだろ別に。殺されかけたのに寛大な態度だろ？
アイツはそんな事態が来るとは思ってないだろ。
んじゃ、ここは一つ、じっくり準備して突然に襲いかかってやりますか。
クソガキ、テメェはいい加減に兄離れしやがれ。
サヨナラの時間は直ぐそこだぜ？
お兄さん復活です。この人は起きたら強いぞ……？