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15:サヨウナラの続きです。先にあっちを読んでください。
今回は、奪還編というか。



16.守るべきもの



 それは、中学生としての生活もそろそろ終わるであろう、そんな季節の事。
 一番恐れていたことが、起こってしまった。
 植物状態だった兄が消えたのだということは知っていた。病院からあらかじめ知らされていた。ならば、いつか彼はやってくるだろうとは思っていた。彼の片割れたる、もう一人の兄を取り戻しに来るだろうと。
 その時に、自分は果たして彼を追い返すことが出来るのだろうかと、何度も自問した。答えは明確ではなかったが、殆ど無理だということくらいは理解できた。彼は強かった。そして、取り戻しに来るのならば力を蓄え、もしもの状態もないようにと調子を整えてくるに違いなかったのだ。その上、自分を良く知ってまでもいる相手に勝てる見込みはゼロに近い。絶望的なまでに、自分が彼を迎え撃てる可能性は低かった。
 だから、今のこの状況は、自分にとっては悪夢でしかない。
 ずっとしめられていたカーテンが開き、室内が明るくてらされ、窓は開け放たれて風が入り、ベッドの上から動けなかった兄は自分以外の存在に抱きついていて、抱きつかれている存在は慈愛に満ちた目で兄を見つめていて。
 そんな状況は、自分が思い描いたモノではない。
「よぉ、クソガキ」
 あまりの衝撃に呆然としていると、ふいに、侵入者がニマリと笑った。
 金色の目は真っ直ぐにこちらに向いていた。鋭すぎる眼孔は凶器になるのだと、今更ながらに知る。あの目は何だろうか、とても、とても恐ろしい。射抜かれるなんて生やさしいものではない。中身を暴かれて、晒されて、崩されて、奪われて、消されてしまうような、そんな恐怖を与える目。それは、相手を『敵』と認めたときの目。
 思わず一歩後ずさると、彼の口の端がさらに上がった。
「オイオイ、何、幽霊見たみたいにショック受けてんだ?テメェは知ってたろ、俺が生きてることを。あぁ、そういやコイツには教えてなかったんだってなぁ?」
「……だったら何だ」
 お前は。お前は死んだはずだった。永遠に目覚めない眠りについているはずだった。それはつまり、そういうことではないか。世界から追放された存在。自分たちの『三人の』世界からは放り出された存在。それが変わらないというのに、わざわざ兄に知らせることも無いと判断しただけ。それだけだ。
 だが、それを告げると彼は笑った。嫌な笑みだった。
「違うだろ?テメェは俺が生きていると知ったコイツが、俺のことばかり考えるのが嫌だったんだろ?独占欲は強かったからな、テメェは」
「……独占欲?」
 その時、キョトンと声を上げたのは兄だった。兄は、このような状況になってもまだ、自分たちの思いの向かう先が分かっていないらしい。
「独占って……何を?」
「あー……お前は知らなくて良い。てか、知りたかったら後で教えてやる」
「…後?何を言っているんだ?」
 頬を掻いている彼を見据えて、持っていた通学鞄から黒光りする物体を取り出し、構える。相手の片眉が上がったのに満足しながら引き金に指をかけ、安全装置は外した。
「うわ…テメェ、銃刀法まるっきり違法してるのかよ」
「フン、警察を脅すときに、ついでに許可させた。いつか……貴様が帰ってくることも考慮には入れていたからな。武器は、あるべきだ」
「そりゃごもっとも。で、腕の方はどうなんだ?」
「少なくとも貴様を撃ち殺せる程度にはある」
 そうだ、今度こそ殺してしまおう。確実に、しっかりと。そうでなければ『二人の』世界が壊れてしまう。生活が、破綻してしまう。過去のように『三人の』ものに戻ることはなく、きっと自分が入れられてしまうのは『一人きり』の世界なのだ。それは、嫌だ。一人は嫌いではないが、あの二人が一緒にいることは、アイツが兄を奪っていくことは、それらは決して許せることではない。
 今まで通りに『二人きりの』世界が欲しいのなら、目の前の彼を、殺してしまうしかない。殺して殺して殺し尽くせば、きっと、きちんと『二人の世界』が戻ってくる。
 そうと決まれば話は早い。向けた銃口は、ぴったりと相手の眉間に合わさる。
「今度こそ死ね。僕たちの世界を壊すことは貴様といえど許しはしない」
「怖いこと言うなよな。あ、そうそう。一つ言い忘れてたぜ」
 ぎう、と兄の肩を抱く腕に力を込めた相手の様子を深いに思いながら眺めていると、耳に届いたのは……パトカーのサイレンの音?
 まさか、と相手を凝視すると、楽しげな笑みが瞳に映った。
「テメェ、誘拐事件まで起こしてたんだな。何だっけか……警察のお偉いさんの子供を誘拐して監禁してたんだろ?で、その安否と、あとはお偉方の不正事実の黙秘とを引き替えにして、言うことを聞かせてたんだろ?ったく、どんだけ凄い小学生だったんだよ、テメェは。実の弟ながら、全く持って末恐ろしいってか……ともかくだ」
 バタバタと足音が聞こえる。誰かが入ってきた音。廊下を今、急ぎ足で進んでいるような音。それは多分、
「チェックメイトってやつだぜぇ?テメェが守りたがってた『二人の世界』とやらは、これで完全に崩れたんだよ。ご愁傷様……なんて言ってやる気はねぇ。自業自得だろ?」





これでエンドとするべきか、あと一つ作るべきか……ちょっと考えてます。
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