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これで正式に連載終了……っ!
あれから数ヶ月後、みたいな話になっております。16の続きです。先にあちらを読んでください。
そして新しくキャラが出て来てます。
17.青いハート
俺たちは少年院……のような場所で出会った。『ような』というのは、そこが合法的に社会から認められた施設ではないのが一目瞭然である上に、本当に少年少女ばかりが集まっている場所だからだ。大人なんて、施設で働いているヤツらだけだ。
ここに入って数ヶ月だが、どうやらここは『手に負えない』子供を集めた場所らしいと知った。更生云々の話でなく、本当に手に負えない、社会に対しての酷い危険分子を孕む存在。ただそれだけを集め、隔離する場所だと。恐らく入れば一生出ることはない。大人になれば、相応の別の施設に送られるだけなのだろう。
代わりと言っては何だが、ここでは頼めばある程度の物は供給される。施設内なら自由に歩き回ることも可能だ。さながら飼育ケースのような施設だが、生憎、俺たちはペットと違って愛されることはない。
それで良いと思う。俺も、ほぼ同期で入った彼も、それは望まない。
そしてその、同期で入った彼は施設の同室で、今は本を読んでいるところだった。
「……何を読んでいる?」
「辞書。英和辞書だな」
「…………何故」
「暇だ」
言って、彼は軽く眼鏡を押し上げる。
彼の言うことは分かる。良く分かる。が……そこで、どうして辞書。そんな物よりはまだ参考書の方が。
そう伝えると、彼に鼻で笑われた。
「参考書などくだらない。どうしてあのような本が出回っているのか……世界七不思議の一つに加えても良いんじゃないかと僕は思っているんだが」
「いや、分からない問いを分かるようになるには……あぁいうものもいると思うが」
「そこだ」
ビッと本で指されて何でもないのに、たじろぐ。条件反射というヤツだ。
この反応が気に入ったのか、先ほどよりも機嫌良さそうに笑みを浮かべて彼は続けた。
「僕にとって、参考書程度の問いは簡単すぎる。それだけだ。だから参考書は要らない」
「……」
自信満々な言葉に脱力する。どこからその自信は出てくるんだ。
だが、まぁ、納得するかと言えば、答えは当然ながら是だ。彼が賢すぎるのは知っている。実行力もあるのだが……ここにいるということは、つまりはソレがあだにでもなったのだろう。実行しなければ、外に出さなければ他人には何も知られない。
そういえば、俺たちは互いが互いに、ここに来た理由も知らないのだ。会ってもう、何ヶ月にもなるというのに。
気付いてみると、何だか気になる。
「……訊いて良いか」
「何だ?改まった様にして……」
「どうしてお前はここにいる」
今まで発することの無かった研いだからか、彼は微かに目を開いた。
珍しいな。こんな表情は見たことが無い。彼には悪いがもう少し貴重な風景を観察したい。そう思ってジッと見ていると、ハッと我に返りでもしたのか、少し赤くなって視線を逸らした。恥ずかしかったのか。
年相応だな、そう思ってクスリと笑うと、軽い睨み。だが、俺には彼が怒っていないことが分かっているので気にしない。確証済みだ。
「……君は時々、良い性格をしている」
「褒めては……いないか」
「当たり前だ。で……僕の『理由』だったか」
静かに彼は瞳を閉じた。
「僕はとある罪を犯し、そのために捕らえられまいと警察の上層部を脅した。それだけだ」
「…『だけ』?」
そこまでのことをして『だけ』と形容するとは、何と言うか彼らしい。実際、彼にとってはその程度のことなのだろう。パソコン一つで重要情報を得ることも出来る時代だ、そこに彼の頭脳が加わればさぞ素晴らしいことになるのだろう。
「僕にとっては取るに足らないことだ。僕は、あの人と共にいることが出来れば良かった。ただの『二人だけの世界』を求めていた」
「だから、か」
「そうだ。僕はそのためならば、躊躇わない。……それがおかしいらしくて、この施設の人間には、僕の心臓は青い、と言われたが」
「青?」
それはどういうことだろうか?心臓と言えば、もっと暖かな色で脈打つ物だろうに。
「人間ではないということらしいぞ。青い心臓を持つ人間はいない。つまり、狂ったら人間は人間ではなくなるんだそうだ」
「……つまらない言葉だ」
そんなことで人間でなくなるなんて有り得ない。それはある意味で人間を馬鹿にしている言葉だ。
呆れ顔でいると、苦笑と共に彼からも同意が送られた。
「全くだ……そういえば、君の『理由』は?」
「俺か?……俺には従姉がいてな、」
さて、今回新登場の「俺」が誰か分かったでしょうか。分かった人は凄いと思います。
答え「刹那」