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夕刻は過ぎ……建物の外は恐らく、とても暗くなっているだろう時間帯。
だというのに、目の前の金髪は帰る素振りを見せなかった。
暇なのか?と思いながらも、アリオスは黙ってスナック菓子の袋に手を伸ばし……ガシッと手首を捕まれた。犯人は言わずもがな、ダブルオーだ。
「オイ、その手を離しやがれ」
「…アリオス」
「……何だよその目」
「……」
「無言決め込むんじゃねぇよ。良いから何か言え」
「……」
「悪い本気で何か言ってくれ」
「……食べ過ぎ」
つまり、彼女はいい加減に食べるのを止めろと、そう言いたいワケらしかった。
たったそれだけの事柄を聞くのに、何でこんなに時間を掛けているんだろうかと考えつつ、まぁいつもの事だったので気にしないことにした。彼女との会話は、大概がこういう形に収まる。
と、それはともかく、今はグラハムのこと。
新しい袋を開けるのは諦めて、アリオスは足を組んで頬杖を付いた。
「金髪……テメェ、いつ帰んだよ?」
「む…何だ?鈴の君、私を心配してくれているのか?」
「いや違…」
「そうかそうか…ついに鈴の君も私を心配するようになってくれたのか。何と言う素晴らしい日か!よし、今日という日を記念日として……」
「残すんじゃねぇよ!」
本気で実行しそうな狩人に、慌てて制止の言葉を叫ぶ。そんなもの……残されたらダメだ。本当に嫌だ。そんな物を残されるくらいなら、今この瞬間に都を滅ぼしてしまうほうがマシだ。
鳥肌が立った腕をさすりつつ、ダブルオーの手をペシンと叩く。
ワッフルに手を伸ばしていたダブルオーは、微かに恨めしげな視線をこちらに寄こした。先ほど邪魔された仕返し、良い気味である。
「んで……帰るのか、帰らねぇのかハッキリ言え」
「心配されるだろうが、帰る気は無い」
「理由は」
「君たち二人をおいていくのが心配なのでね」
真面目な言葉に、だろうな、と口の中で呟き返す。
自分一人でも手に負えなかっただろうに、そこにダブルオーという新しい『未知』が現れたのだ。そんな存在を二人ともおいていくことに抵抗を覚えるのは当然だし、ダブルオーと共にいたという反抗勢力の主犯格の男の事も気になるのだろう。
だから、と納得していたのだが。
「何せ君たちと来たら見た目だけは十分に子供だからな」
「……は?」
「……」
「だから、君たちは見ただけではその通りの者と分からない。誘拐されかかって相手を返り討ちにするくらいはしてしまうだろうからな」
だから心配なのだよ。君たちにもしものことがあっては大変だろう?
そう続ける彼の顔を、アリオスはまじまじと見た。抵抗を覚えているのは事実らしいが、自分の思っていたのと『抵抗』の種類が違う気がする。
思わずダブルオーと顔を見合わせ、アリオスは再びグラハムを見た。
「…じゃ…宿の方に連絡はどーすんだよ…」
「そこは後日に謝れば問題ない」
そう言うグラハムを見て、アリオスは一つ、思い出すことがあった。
そういえば彼は、都に滞在しているときは基本的に、この場所で過ごすことが多かった。