お題：桜 03.圏外

桜のお題もかなり久々ですねぇ……。
アレルヤ奪還から本当に少しして、くらいの時間軸で。

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03．圏外



　その後ろ姿を見た時、思わず声を掛けていた。
「よ、えっと……誰さんだっけか」
　……のは良い物の、まだ会って時間の経っていない彼の名前をとっさに思い出せなかったコトはその、少し問題ではあるだろう。たしか、とても印象に残る名前だった気がするのだが……聞いたのは本当にその一回だけで、その後は彼と会って話す機会もなく今の今に至るのだ。思い出せなくても仕方がないと言えば仕方がないだろう、これは。
「？……あぁ、貴方ですか」
　そう結論付いた自分の前にいる彼の方はというと、訝しげな顔で振り返って後、自分の顔を見て納得の表情を浮かべた。事情はおおよそ察してくれたらしい。
　直ぐに表情は苦笑に変わり、止まってくれていた彼の元に行って、肩を並べて歩き出す。
「悪いな……名前覚えて無くて」
「気にしないで下さい。しかたないですよ、来て日も浅いそうですし……僕とは、あまり話らしい話もしてないですし。僕の方は結構貴方を覚えてるんですけどね……」
「は？そうなのか？」
「えぇ。よくティエリアに追いかけ回されてるところを見てますから」
「……」
　いやまぁ、確かによくよく追いかけられているが。
「……凄ぇ不本意な覚えられ方だな」
「ですよねぇ、やっぱり」
　彼はそう言ってクスクスと笑った。
「アレルヤですよ、僕の名前。アレルヤ・ハプティズムです」
「……あぁ！そういやそんな名前だった！」
「そんな名前って……いやまぁ、そうですけど」
　その反応は、何となく釈然としません。
　やや憮然と呟く彼が何とも言えず面白く、思わず笑ってしまうと軽く咎めるような睨みが送られてきた。敵意のない、親しみの籠もった睨みというのも珍しい。
　にしても、ともう一度彼の名前を口の中で転がす。アレルヤ・ハプティズム。
「神をたたえよ……それから…洗礼、か？改めて聞くと凄い名前だな」
「だいたいの人には言われますね……そういえば刹那は初めて名乗ったとき、物凄く顔を顰めてました。あれは本当に印象的でした。今でもしっかり覚えてますし」
「顔を顰めてた？何でだ？」
「それに関しては後で訊いたんで知っているんですが……ナイショです」
　小さく笑って唇にトンと人差し指を当てるアレルヤ。
　そんな彼曰く、別に隠すようなことはないのだそうだ。隠そうと隠すまいと、きっと刹那は気にしないし、気にされるような内容でもない。自分が知ったところで何がどうなるような話でもなくて。ただ単に気分の問題だと。
「だって、少しくらい……が欲しいでしょう？」
「ん？今なんて言った？」
　上手く聞き取れなかった言葉に眉を寄せると、何でもないと慌てたような声が帰ってきた。というか実際に慌てているようだった。
　何でかねぇ。特に慌てられるようなことはしていないと思うので、となると彼の方か。彼が、少しでも慌てるようなことをしてしまったのか。しまった、という顔をしているところ……本当に言う気は無かったらしく、ついウッカリと口にしてしまったようだった。結構なウッカリ屋なのかもしれない。
「そういえば、どこに行くんです？」
「機体のトコ。まだまだ要練習ってね。そちらさんは？」
「僕は散歩です」
「へぇ？」
　何で、とは訊かない。最近ようやく『外』に出ることが出来るようになった彼なのだし、気持ちは痛いほどに分かる、気がする。
「大変だったろ、今まで」
「いいえ…むしろこれからの方が大変だろうなぁって」
「違いないな…ところで」
「何です？」
「俺の名前、覚えてる？」
　訊けば、当然だと肯定が返ってきた。
「ライル・ディランディ、でしょう？」
「そっちじゃなくってコードネームの方」
「……」
　途端に黙ってしまった彼を見て、これが普通だろうなと苦笑する。彼あるいは彼らと兄との触れ合いの様子は知らないが、そうであっても、知っていて二度と帰ってこない人間と瓜二つの存在がいれば。こうやって戸惑うのは当然なのだ。
　まだまだ、その名で呼ばれるのは先の話らしい。
　やれやれと溜息を吐いて、その時はいつ来るのだろうと思った。

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やっぱなぁ…という管理人の心の声もこれに入っています。
コードネームを継ぐに相応しくないとは言えないし、むしろ相応しいと思うけど。
でも、何か複雑なんです。