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それを見た瞬間のアリオスの衝撃は、正直、ダブルオーが人型化していると知ったとき以上のモノだったように思う。思わず呆然と彼らの……いや、彼のことを凝視してしまったくらいだったし。隣のダブルオーも似たような感じだったので、つまりこれは誰の想像の範疇でもない事象であると言うことだった。
そしてもう一つ。金髪の狩人までもが驚いた顔をして彼らを見ていた。こちらは彼ではなくて、もう一人、自分たちの仲間でない方を見ているようだが。知り合いらしく、相手の方も軽く目を開いている。
誰も彼もが驚愕に固まっている中。
唯一、全くと言っていいほど事態に困惑も何もしていなかった、杖から人型になったのであろう人形が困ったように口を開いた。
「ねぇ、何でみんなそんなに固まってるの?僕って何か変なコトした?あるいは紅龍?でも紅龍は常識人だからそーいうことはないと思うんだよね。ってことはやっぱり僕でしょ?ねぇちょっとアリオス、何か反応してよ。ダブルオーも何か言ってってば」
「……テメェは黙ってろや」
相変わらずのマシンガントークに我に返ったアリオスは、眉間を揉みほぐしながらセラヴィーをチラリと見る。間違いない。これは確実にあの杖だ。有り得ないほどに杖の状態と纏う空気が変わらないために誰なのかが一発で分かった彼だったが、これで確信を持つことになった。……もしもこれで違っていたら世界の成り立ちを疑う。こんなのは二人も三人もいらない。
「酷いねアリオス。一体何年ぶりの再会だと思ってるの?少なくとも数十年は、ボクは君の顔を見ていた記憶がないんだけど。それなのに黙れって酷いと思うのは僕だけ?ね、ちょっと答えてよアリオス、アリオスってばさ!」
「煩ぇ!分かったテメェは喋ってろ。ただし俺が訊いた質問に対してなッ!」
……こんな、黙っていろといっても喋り出すような、しかもしの喋りもかなり長いような対象なんて。
とりあえず叫んでからグッタリしていると、ダブルオーがポン、と軽く自分の肩を叩いた。頑張れ、という事らしいが、ならば彼女も手伝ってくれればいいと思う自分は間違ってないだろう、絶対に。
心の中でそう確信していると、今度は別の場所から別の声。
「時に鈴の君」
「鈴の君言うなやっッ!」
「へぇ、アリオスって鈴の君なんだね。キュリオスに会ったら直ぐに教えてあげないと」
「オイ、テメェ……教えんなよ……?教えんじゃねぇぞ……?……で、何だグラ公」
「どうして紅龍がここにいる?」
紅龍。その名前を聞いて、セラヴィーと共に来た青年の方を向く。どうやらセラヴィーの関係者で、グラハムの知人であるらしい。
その紅龍というらしい青年は、軽く息を吐いてグラハムを見た。
「それはこちらのセリフです。どうして貴方はこのような場所に……」
「それはだな、紅龍。私とこの鈴の君がセンチメンタリズムな運命に導かれて…」
「グラハム、説明は手短にお願いします」
「ふむ、それもそうだな。では出会った瞬間から今までのことをじっくりと…」
「手短にお願いします」
……なるほど、グラハムと紅龍は、とても長い付き合いらしい。やりとりを見てアリオスは確信する。そうでなければここまで上手にグラハムの話を区切ることは出来ないだろう。初めてであったり付き合いが短いと、止めるには叫ぶかどうにかしなければならないので、その辺りから何となく理解できる。
「…では簡単に。鈴の君と私は都内で偶然に出会った。以来、私は彼に情報や食料を提供する代わりに大人しくしてもらっている。そういう関係だ。そちらは?」
「私たちは……」
「単なる腐れ縁ってヤツだと思うよ。ね、それよりも情報交換しようよ。僕って起きてから間もない上に、さっきまでずっと杖状態でさぁ……何も知らないんだよね」
口ごもる素振りを見せた紅龍に変わって、セラヴィーがニコリと笑いながら言う。
そこで打ち切られた話に、セラヴィーと紅龍の間には何かがあるのだろうと勘づきはしたが……ダブルオーと顔を見合わせて頷く。そこには触れないでおこう。触れてはいけない話のようだから。