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家に帰れば、出迎えてくるのは沈黙であるはずだった。いつもと同じように。
けれどもそこには、明かりがついていた。
付け加えて、知人がいた。
「……クラウス、どうしてお前ここにいるんだよ」
「いや、ちょっと会ってはマズイかと思う相手に出くわしかけたからな」
「逃げてきたワケか」
「緊急待避といって欲しい」
「待避って……やっぱり逃げてんじゃねぇか」
はぁ、と息を吐いてライルは、リビングのイスに座ってちゃっかりと夕食まで作って食べているクラウスの目の前の席に腰掛けた。そこには、ちゃんと自分の為にであろう、作られた一人分の夕食が置いてあった。
勝手に色々としてくれているこの友人だが、それはここがライルの家だからなのだと、自分は知っている。彼にとってこの場所は、くつろげる唯一の場所なのだ。だから自然と、このような態度になったりする。
自分の家でもくつろげない彼は、恐らくこの場所がなければストレスで胃に穴が開いて死んでいただろうと、今でもライルは思っている。暗殺者に殺される前にストレスに殺されそうな程、彼には心配事や厄介事が多いのだ。
何せ都の有り様に逆らおうという男である。
心労がかさんでも仕方があるまい。
「んで、その会ってはマズイかもっていう相手は誰だ?最近やっかいになりかかったっていうマネキンとか言う狩人?」
「いや、あまり都には寄り付かないという話の別の狩人だ」
「ふぅん?」
ライルは軽く片眉をあげた。
狩人の本拠地があるのはこの、都である。そこに寄り付かないという狩人は珍しく、今も何名かの顔が脳裏にピックアップされている。多分だが、この中の誰かがクラウスの言う『会いたくない誰か』だろう。
「結局、誰だよ?」
「グラハム・エーカー。知らないか?」
その名前を聞いて。
ライルは飲んでいたコーヒーを吹き出しかけてどうにか堪え、代わりに思い切り噎せ返ってしまった。
「ライル!?」
「げほっ……いやそれ……何の冗談?」
あの、さっき会った兄の知り合いっぽかった金髪の狩人が、クラウスが待避しないといけないくらいの人物?このクラウスが?
本当だったら世界に絶望しても良いですか。
「いやさ、俺、そいつにさっき会ってきたんだけど」
「知り合いだったのか?」
「俺の兄の方にな。んで、兄さんは変なあだ名を付けられてた」
そしてそれは自分もだったが……そこは敢えて口にしないことにした。茨姫、なんてあだ名は知り合いの誰にも知られたくない。本気で。
「てーか、何でそいつに見つかったらマズイんだよ。分からないんだけど」
「あの狩人は人間も異端も関係なく、悪人……秩序を乱す存在を消していくらしい。噂でしか私の所には来ないが、信憑性はあるだろう」
「悪人……あー、そんな感じはあったかもな…」
確かに彼は、どっちかといえばそういう感じだった。
納得して、ライルは改めてコーヒーを飲んで。
「そういえばライル、剣が突然に人型になるということはあると思うか?」
その言葉に再び噎せた。
……剣じゃなくて銃になら心当たりはよくよくあった上に、人型が剣になったり杖になったりする場面を、本当に直ぐ前に見てきたばかりだったから。