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「ったくセラヴィーの野郎……帰ってきたら覚えとけよ…」
「あはは…アリオス怖いよ…?」
「当然だろ。アイツ、途中で意図的にはぐれやがった……ッ」
困ったように笑うキュリオスを背負い歩きながら、アリオスが恨みを持って思い出すのはセラヴィーの顔。
あの同類、白々しく笑顔なんて浮かべて「あ、あそこに猫がいる可愛いね」なんて言って、猫どころか生き物の気配がないような路地裏に入っていって。止める間もなかった素早い反応に呆然として、異変を感じたらしい半身が目覚めると同時に我に返ったのは、ついつい先ほどの話である。
これで一体、どう動けと言うのだろう。帰ればいいのか。だが帰ったら帰ったで、間違いなく誰かに何か言われる。ていうか何より、セラヴィーを一人で放っておくのが危険だ。勝手に消えては戻ってきて、そのときにいらない厄介事を背負っていることがあるのだ、あのバカは。
というわけで、そうなった場合に尻拭いをさせられることが多い身としては、事前にそういう事態を避けてしまいたいと思うわけである。ちなみに次点はヴァーチェ。正直、対応型なら自分よりも尻拭いの回数が多くても妙ではないと思うのだが、いつの間にかこういう事になっていたのだ。
「ねぇ、やっぱり一回帰らない?ケルディムに頼んだら教えてくれるよ、きっと」
「それよかヴァーチェの『システム・ナドレ』使わせた方が速いんじゃねぇか?都の中なら全域で展開できるだろ、アレ」
「うん。でもやってくれるとは思えないよ?」
「……確かにな」
そこはキュリオスの言うことももっともだった。
ヴァーチェ特有の能力『システム・ナドレ』は、本当に必要な時か、あるいはヴァーチェがやる気になった時にしか発揮されない。そして今は本当に必要ではないだろうし、やる気になどなるわけもない。
「でもな、ケルディムに借りを作るのは俺が嫌だ」
「アリオス……そういうこと言って」
「しょうがねぇだろ。アイツ、凄ぇ面倒な要求ばかりしてくんだからな」
「そうなの?どんな要求されたの?」
「内緒な。話す気はねぇよ」
「あ……うん、分かった」
大人しく引き下がって、キュリオスはこくりと頷いたようだった。
こういうとき思うのだが、キュリオスはもうちょっと押しが強くなっても良いんではないだろうか。気弱だからといって彼を嫌いになることは未来永劫無いだろうが、それでもこの性格で損をしたことは一度や二度ではないはずだ。
まぁ、だからこそ自分がいてやらなければと思うのだが。
それに、押しが弱い彼と押しが強い自分、二人そろうと割と良い感じにバランスがなっている気がする。
「ま、セラヴィーにもセラヴィーで能力があるし、別に気にしなくても良いかもな」
「だね。あ、ねぇ、アリオス」
「ん?何だ?」
「その……」
チラリと視線を後ろに向ければ、キュリオスが少し顔を赤くして俯いたのが見えた。……一体何だろうか。
「いい加減、降ろしてくれても良いんだよ……?」
「降ろす……あぁ、負ぶってることか?」
「うん。重いでしょ、アリオス」
「ンなことあるかよ」
むしろ軽すぎるくらいだと続ければ、そうかなぁと返される声。
絶対にそうだと断言したかったが、そうすると話が平行線で終わらない気がしたので敢えて口にせず。
とにもかくにもセラヴィーを見つけるのが先決と、アリオスはキュリオスを背負ったままに歩く足を速めた。