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目が覚めると、目の前に碧色の瞳があった。
少しばかり心配そうに細められていたその目はしかし、自分が起きたと分かったからだろう、あからさまにホッとしたような光を宿した。
「起きましたか」
「……俺は、どれ程の間意識を飛ばしていた?」
「昨日の夜からずっと。今はもう朝です」
「そうか……」
軽く頭を振って、ティエリアは窓の外を見た。成る程、確かに空は白んでいる。ということは、今はまだ朝早くということだろうか。
などと思い、ずっと傍にいたのだろうオーガンダムに視線を戻す。
「お前、寝ているのか?」
「といいますと?」
「睡眠は取ったのかと訊いているんだ」
出会ったばかりで何とも言い難いのだが、彼女ならずっと起きていてもおかしくないような気がした。恐らく必要があれば躊躇いなく彼女は徹夜でも何でもやるだろう。そういう雰囲気を持っているのだ。
だから、場合によっては有り得るのだ。彼女が徹夜で自分のことを見ていた、という状況も。そしてそれを何とも思っていない、という状況も。
それは困る。たとえオーガンダムが何とも思わなかったとして、生憎だがティエリアはそうは考えられないのだ。どんな相手であれ借りを作ったままというのは些か気持ちが悪い。居心地が悪い、とも言う。
どうなんだ、と無言で促せば彼女は不思議そうに首をかしげて後、軽く首を振った。縦でなく、横に。
「取っていません」
「……何故なんだ。誰かがやれとでも言ったか」
「いえ、自発的にです。私はあまり睡眠を必要ともしていないので」
「…?睡眠が必要ない?」
「私は人形ですから」
そう言われて思い出す。そうだ。彼女は人形、なのだった。生き物のように見えていたとしても、それは本当に見せかけだけ。中身は生き物とは全く別の物。頭が砕けようと身を動かす『核』さえあればどうにだってなる、そんな存在。
ふと、そこまで考えてティエリアは眉根を寄せた。
……自分は、こんなことまで知っていただろうか。
「どうして気絶していたか、訊いても?」
「……いや」
しかし思考はオーガンダムの声に遮られ、自身にとってもどうでも良かったことなので、そのままその思考は消えて無くなった。
無くしたまま、ティエリアは答える。
「俺もよくは分かっていない」
「そうですか」
「…あぁ」
本当は嘘だが、ティエリアは頷いた。
頷きながら、あの子供によって気絶させられたときの事を思い返す。
彼は、突然手を自分の額へ伸ばしてきたのだ。何だ、と思ったときには遅い。既に手は額に触れており、それによってティエリアは意識を奪われた。…それだけのこと。
けれど、ふっと意識が飛ぶ前に、子供が口の動きだけで伝えた言葉。それがどうしても忘れられず、引っかかり、言うのをためらわせていた。
『君に夢を見せてあげる。とても大切な大切な、記憶の欠片を見せてあげる―――』
そういえば起きる前、夢を、見ていた気がする。
内容は思い出せなかった。