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「…ヒリング、いい加減に諦めないか?」
「嫌よ!」
「……だろうな」
ブリングは呟いて、はぁとため息を吐いた。
同じやりとりを、先ほどから一体何回繰り返していることだろう。
ヒリングがこうムキになると、そう中々止められる物ではない。リボンズだって出来るかどうか怪しいし、自分に至っては確実に不可能である。
だからこうして、昨晩からずっと捜索を続けているヒリングの傍で、ブリングは仮眠も取らずに立って彼女を見ているのだった。目を離した瞬間に彼女が癇癪を起こして博物館を吹きとばしかねない気がするので、怖くて眠ることが出来ないのである。
…月代というのは『鏡』を持つ種族だという喩えがある。
己の中に何枚かの『鏡』を持っており、それを駆使することで月代としての力を発動するのだと。そして、それはあながち間違っていないと思う。実際、喩えるとしたらそれが一番相応しい。
持つ『鏡』の枚数は一人一人が違い、一枚の『鏡』につき一つ、異端の能力あるいは個人の所有する物を写し取り扱ったり、隔離することが出来る。そう考えるのが最も分かりやすいのだ。
だからこそ『視る』ことが出来ない…つまり『鏡』に『移す』ことの出来なかった能力、物体は能力の対象外なのである。
それを踏まえて。
ヒリングは、とても好戦的な性格…だと思うのだ。
だからか『鏡』に写し取る能力が殆ど全て、戦闘系の物だったりする。
ここまで述べれば誰しもがきっと理解するだろうが、彼女は月代のメンバーの中ではいわゆる歩く爆弾なのである。刺激を加えると簡単に破裂する爆弾。
というわけなので、どうしても不安の方が勝る。
「あー、もうどうしろってーのよ!」
「諦めて帰るべきだと思うが」
「嫌だって言ってるでしょ!リヴァイヴに小言を言われるのは嫌なの!」
「…言うのか?」
それはどうだろう。せいぜい呆れられて『貴方は何も手がかりを手に入れずに帰ってきたんですか?』と言われる程度……いや、これも十分小言なのか。少なくとも目の前で憤っている彼女にとっては小言だろう。
「ブリング、アンタも手伝いなさい!私一人だから見つからないのよ!」
「いや……そもそも手がかりという物が無いのでは」
「あるの!あるに決まってるじゃないっ!」
「…根拠は?」
「私があると思うからよ!」
無茶苦茶だった。
だが、それを指摘したところで今のヒリングに伝わるとも到底思えない。
ブリングはしばらく躊躇した後、まぁ手伝うくらいならば良いだろうかと思い、そして。
「すみませんですぅ…誰かいないですかぁ…?」
このフロアの入り口あたりからの声に、バッと振り返った。
いたのは茶髪の少女。迷い子…か、何だかオドオドしているような気がする。
どこからどう見ても一般人に見える少女。
しかし…今は状況が悪い。
ここまでやる気のヒリングが、丁度良いタイミングでやって来た彼女を放っておくわけもなく、従って、関係者であれ無関係者であれ、少しばかり苦労を強いることになるだろう。実に申し訳ないことに。