14.ノートの隅に
思いつき、というものは時として思いがけない結果をもたらす。
そんな当たり前の事実を、ハレルヤは改めて実感していた。
まぁ、その実感を得るために授業中に挙動不審を繰り返す羽目になったのだが、それは仕方のないことだったのだという事にしておこう。実際、爆笑を堪える苦労よりも、この結果に対する満足の方が感情としては強い。ある意味奇跡的なこの結果を残せたという事実が、妙な充足感を与えてくるのだ。
これは……自分だけで一人占めるには勿体なさ過ぎる気がする。他の誰かに見せて、その反応を見るべきだ。
というわけで、休み時間。
ハレルヤはアレルヤに思いつきの結果を見せてみた。
「えっと……え?これ、意図的にこうしたんじゃなくて?」
……すると疑われてしまった。
疑うその気持ちは分かるのだが、生憎と、この結果は偶然が引き起こしたもの。軽く肩を竦め、笑いながら口を開く。
「俺は、妙な小細工は一つもしてねぇぜ?」
「本当に?」
「本当に。っつーか、そんなことする理由がねぇだろ。やるなら眼鏡のとこでやる」
「それはそれで駄目なんだけどなぁ……でも、本当に偶然にこうなったって言うなら凄いかもね……」
「だろ?」
「うん。凄過ぎて何か涙出そうだよ……」
「泣くな泣くな。これはあくまでフィクションで、現実の人物・団体・役職・ポジションとはこれっぽっちも関係ないっての」
急激に萎んだ片割れのテンションに苦笑しながら、彼に見せていたノートの端の思いつきの結果を、改めて見る。
きっかけは、前の休み時間、クラスメイトの誰かがドラクエの話をしていたのを聞いてしまった事なのだろう。その時は、そういえばそんなゲームもあったかと聞き耳を立てるでもなく聞き流していたのだが、授業中にふっとそれを思い出してしまったのが事の始まり。ゲーム内で就ける物から適当に職業を見繕って、適当に自分を含めた現実の六人を選んで、くじを使ってそれぞれに当て嵌め……その結果。
見事、刹那が『留守番』の地位を得たのであった。
……念のために付け加えておくが、留守番なんて職業は無い。何となくネタにならないだろうかと突っ込んでいただけのポジションである。
本当に空気を読むくじだと思いながら、ノートを閉じて机の上に落とす。
「しっかし、主人公が留守番とはな……笑ってくれと言ってるようなもんじゃねぇか」
「いや、笑えないよ?主人公不在って普通に問題でしょ」
「そうでもねぇだろ。コミック一巻分くらい主人公の出番なかった漫画もあるんだしよ」
「それとこれとじゃ深刻さが違うよ」
くっくっと笑いながら零した言葉に、だが、片割れはどこまでも真面目に対応してきた。
「あれはあくまで、カメラが当たって無かっただけの話でしょ。主人公は、見えないところでちゃんと活動出来てたはずだよ。だけど留守番じゃあ出来ることもほとんどないし、下手するとずっと留守番状態かもしれないじゃないか。もしもそうなったら、主人公不在のままストーリーが進んで行くわけで、それに従ってモンスターの質も上がって、パーティのレベルも上がって……留守番のままの主人公は経験値ももらえないから、どんどん他のメンバーとのレベルは引き離されて行くんだよ?そのせいで主人公不在の対ラスボス戦とかが引き起こるんだから、留守番の恐ろしさを甘く見ちゃ駄目」
……そして、真面目な上にどこか熱が入り過ぎていた。
思わず、呆れる。
「……お前……真面目に語りすぎだろ。だからフィクションだっつってんだろ」
「それは分かってるんだけどさ、留守番任されるのって、ほら、ハブられる前兆みたいなところがあるでしょ」
そう言って微笑む片割れを見て、ハレルヤは視線をふい、と逸らした。……正確に言うと、逸らさざるを得なかった。
何故かと言えば簡単な事。
見ていられなかったのである。
本編におけるアレルヤの扱いを、本人を除き誰よりも近くで見てきた自分だったからかもしれないが、彼がこの類の話をしている様を見ているのは、何と言うか、辛い。もっと正しく言うならば……怖い。彼の、その語りが余りに淡々としているせいで。
もしかしたら案外……根に持ってるのかもしれない。
有り得ない話ではないかもしれない。そう思いながらも、そう思っている事は表に出さず、彼の言葉に普通に返事を返す事にする。……ここで下手につっつくと、後が怖い。
「ま、あのチビガキなら大丈夫じゃねぇの?二期じゃあ真のイノベイターとして覚醒してるしよ、あれで空気になる事はねぇだろ」
「だね。空気は僕だけで十分だよね」
「……お前、やっぱ根に持ってんのか?」
「そんな事無いよ。事実を述べてるだけだって」
「……そうかい」
その割に微笑みが微笑みになっていない気がするのは気のせいなのだろうか。
実は三国伝マリオパロの配役をあみだで決めてて…その派生的にあみだやったんですけどね。
ちなみに他の方々のあみだ結果。
ニール・盗賊 ライル・勇者 アレルヤ・武闘家 ハレルヤ・遊び人 ティエリア・魔法使い。