62:帽子
そうして目が覚めたらそこは見なれた場所だった。
「……え?」
「…あれ?」
目の前にいた妹の姿を確認して、ガンダムは改めて自分の格好を見る。
勇者……の衣装ではない。
それは、RPGの世界に行く前の、普段着と全く同様だった。
「……つまり…これって」
戻って、来た?
では……何で?
「あ、もしかしてゴッドがラスボス倒してくれたとか!」
「いいえお兄さん…実はそれは無いんです……」
ちょっとだけ広い室内の中、アレックスが眉を八の字にして言う。
「だってですね、私たち、ようやくデビルガンダムの本体の目の前に行ったところだったんですよ?」
「アレックス、ゴッドと一緒にラスボスの所に行ったの?…何で?」
「それはまぁ、色々とあったんですよ……でも、ですから、ラスボスが倒れてないことは確信をもって言えますよ、お兄さん。なんならゴッドさんとデスサイズさんにも聞いてください」
と、ここで。
室内に、RPGの世界の方には行ってなかったはずのメンバーを発見して、あれとガンダムは首をかしげた。
「……ヴェルデバスター?」
「お……おきた…」
「起きた、って…へ?」
どういうことだろう、それは。今まで……眠っていたと、そういうことなのだろうか。
けれども今の今まで、自分たちはRPGの世界で活動し続けていたはずなのだ。しかも眠っている暇なんてないような状況で。あの場面で眠るなんて単なる自殺行為でしかあるまいが、それはともかく。
しかし…彼の言うことが正しいのならば、多分、同じように『あちら』に行っていたメンバーも『こちら』では眠り続けていたのだということに、なるのだろう。
そうなってくると、問題はどのくらい眠り続けていたかになる。
けれども…それよりも。
「ギャン、これはどういうことなんだ?」
同様に考えていたらしいシャアが事の元凶を羽交い絞めにしながら問うと、こっそり逃亡しようとしていたギャンは、観念したように口を開いた。
「恐らく、電源が切られたんだろう」
「…電源?」
「あぁ。強制終了ボタンがあってな、それを押したらゲームは終わる。……ところでなんだが、シャア、この手を放してくれないか?」
「ダメだ。お前にはこの後、巻き込まれたヤツら全員に謝って回るという義務がある」
「義務なのか…」
「あきらめなさい」
「……あの時キーを打ち間違えなければ…」
ララァにトランプカードを首筋に添わされて諦観したらしい。元凶はがくりと頭を垂れた。ざまぁみろと言えなくもない。
「でも…ってことは、ヴェルデのおかげで俺たち助かったって事?」
「ギャンさんの言う事が本当なら、そうなんでしょうね…」
「え…何?オレ、いいことしたの?」
「良い事っていうか…うん、助かった事は事実だよな」
「じゃあ…おこんない?」
その言葉に首を傾げ、どういう事?と続けることが、ガンダムにはできなかった。
今ようやく気付いたのだが、管制室の窓から見る外の風景は殆どと言って良いほどに黒が支配していたのである。
夕方でさえなかった。
完全な夜の姿に唖然としていると、重ねるようにヴェルデが口を開く。
「オレいいことしたんならさ、にーちゃんにオレのこと、」
「いや、怒らないようにっては言わないから」
「え!?」
先回りして答えると、ヴェルデは少し絶望の表情をのぞかせた。
…そんな顔をしても無駄なんだけど。
心を鬼…ではなく保護者ヴァージョンにして、ガンダムは続けた。
「きっとバスター、心配してるんじゃない?」
「見たところ、小さい子はもう家に帰ってる時間ですからねぇ…」
「諦めて素直に怒られた方がいいと思うぞ」
「私も同感だな」
「ところで、お兄さんに見つからないようにその帽子は被っているのかしら?」
「…何なんだよ…もう」
五人が五人、こんな事を言うものだから、ヴェルデはややふてくされた表情を浮かべた。
…しかも「帽子」が最後にしか出てない…いいのかこれで…。