「…大きい旅館だな」
「そうかな?これくらいで普通だと思うけど」
「それはお前だけの感性でだろう」
「えぇ?違うと思うけどな…ウイングはどう思う?」
「知るか」
「知るかって……もうちょっと考えるとかしてみてよ」
「そんなことを言われてもな」
そんな風に話している三人の前方で、ヘビーアームズはデスサイズと並んで、これから五日間泊まることになる旅館を見上げていた。
……多分、これは普通よりも大きくて普通よりも豪華な旅館なのではないだろうか。サンドロックは普通だと言っているけれど、それは絶対に違うと思う。何だかんだと言って彼は良いところのヒトなので、こう言うときに意見が分かれてしまうことは度々あるのである。
というわけで、正しいのはウイングとナタクの方だろう。
そんな結論を出しながら、ヘビーアームズはデスサイズの服の袖を引っ張って旅館の中へ入るべく足を進めた。入り口で止まっていたら迷惑になるし、迷惑にならなかったとしても目立つだろうから。
擬人化状態で人間の姿であろうとやっぱり、このメンバーはやけに目立つ。
特に、ウイングの白い髪だとか、デスサイズの紅い目だとかは。
「…今な、お前が何考えてるか分かるけどさ」
一足先に一緒に旅館のロビーに足を踏み入れたデスサイズは、やや呆れた表情でこちらを見やった。
「お前も十分に目立ってると思う」
え?とその言葉に首を傾げると、ついと指さされるのは……顔。
正確には、顔の半分を覆っていた仮面。
「クセっていうかもう習慣だろうけどさ、それもかなり目立つんじゃないかと」
「……」
「とっといたら?」
言われてみればその通りである。
こくりと頷いて、ヘビーアームズは仮面に手を伸ばして、それを外した。この仮面については……実は、指摘されるまで付けていることすら気付いていなかった。習慣というのは怖い物だと改めて実感、だ。
「そういや部屋ってどこだろな?サンドロックが知ってるはずだけど」
『サンドロックはまだ外でウイングと談義中』
取り外した仮面を台にして、いつも携帯している紙を取り出して文字を書いてから見せると、デスサイズはあれ?と首を傾げた。
「談義中は分かるけど……ナタクは?」
「ここだ」
「わ!?」
彼にとっては突然に、先ほどから見えていた自分にとっては何でもなくかけられた声に、二人でナタクの方を向く。先に気付いていたヘビーアームズの場合、むき直すという方が正しいかもしれないけれど。
ナタクは少しうんざりした表情で、まだ外にいるウイングとサンドロックを見やった。
「まだもう少し話していそうだぞ、あの二人」
「いやあのさ、さっきの話題ってそこまで引っ張れるような物だったっけ?」
「別の話題に移ったからな」
「あぁ、そういう方向?」
「今はここの設備についての話をしていた」
「……それってさ、オレらも一緒に聞いた方が良いんじゃないだろうか、とか」
「…まぁ良いだろう、別に」
その点にはナタクもそう答えるしかなかったようで、言った後に彼は備え置いてある椅子を指し示した。座らないか、ということらしい。
座ることに対して何を思っていたわけでもないので、素直に彼の提案に乗ることにして、誰も座っていなかったそこに座る。その後にデスサイズもナタクも座り、丁度それで満員になった。これ以上は子供でも座りにくそうだ。
「何かさ」
と、そんな時にデスサイズが、ちょっと楽しそうに口を開いた。
「今のオレたちってどんな風に見えてるんだろーな?兄弟とか?」
「髪の色は一緒だからな…有り得ん話ではないと思うが」
「だとしたらあれだよな。長男は絶対にナタクだろ。次男は…オレとヘビーアームズどっちだろーな?」
『デスサイズの方だと思う』
それが一番ピッタリだ。人見知りで、人前では上手に喋れない自分は三男が丁度良いだろう。次男が世話焼きなのも丁度良い感じ。
「ここにウイングとかサンドロックとかが入ってくると収集つかないんだよな」
『つかないというか…決めにくいというか…』
「結論が出ないということか?」
「結構簡単に出ると思うんだけれど」
いつの間にかこちらに来ていた二人はそう言って、驚いている自分たちに笑いかけたサンドロックは部屋に行こう?と言った。
サンドロックにとっての『豪華』ってどんなんだろう…?