ごた混ぜ旅館へようこそ！ 三日目：23：00

色々とごめんなさいと、某死神に謝るべきだろうか…。

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　部屋を満たす酷くトゲトゲとした空気。
　それを感じながら、ウイングはチラリとその空気を生み出している源を見やった。
　かなり怒っている様子のデスサイズを。
「…………何があったんだ」
「えっとねぇ」
　やや引きつった笑みを浮かべて、サンドロックが口を開く。
「さっきね、露天風呂に行ったんだけど」
「けど？」
「そこでね、お客さんの一人が触れちゃいけないことに触れたからね……」
「……あぁ、あの顔か」
「うん。そう、なんだよねぇ……」
　それは、自分たちの間では触れてはいけない暗黙の了解の域の、そんな事柄だ。
　しかしそれを他人が知っているわけもない。だからこそ、普通に見て、普通に感想でも零してしまったのだろう。つまり、どこから見ても顔が『可愛い』とか言われる系である事実を、普通に言ってしまったのだろう。
「…そういえばお前はどうだったんだ？」
「ボク？」
「その姿の場合、お前もたまに間違えられているだろう」
　どうだったんだ？と再度問えば、問題なかったよと苦笑が帰ってきた。隣にデスサイズがいたのだし、視線はそちらへ行ってしまったのだろう。
　ようやく成る程と納得したところで、じゃあ、とサンドロックが別の方向へと目をやる。
「ボクからも質問、良いかな」
「言ってみろ」
「……ヘビーアームズがとっても疲れてる様子なのはどうして？」
　彼の視線の先には、ぐったりと布団にうつぶせになっているヘビーアームズの姿があった。右手にはいつも付けている仮面が持たれており、それは倒れ、崩れ落ちる前にどうにか彼が取った物である。流石に仮面を付けたまま布団にダイブは痛いと判断したらしかった。賢明だと思う。
　机に腕を付いて、なんと言うことはないと手をひらりと振る。
「手品のしすぎで疲れたそうだ」
「あれ…それって昨日もじゃなかったっけ？」
「だから、昨日見せたメンバーにまた捕まったらしい」
「それで……やったの？ずっと？もしかしなくても一日中？」
「あぁ、そういうことらしい」
　頼まれると中々断らない……というか断れないのは、ヘビーアームズの長所であり短所だろう。今回は完全に裏目に出ているが。
　にしても、ヘビーアームズをわざわざ探して見つけて手品をして欲しいと頼み込んだというそのメンバー……いささか興味がかき立てられるのだが。会わなくても良いから一目くらい見てみたい物だ。
　まぁ、同じ旅館といえども広い事だし、探して見つけることも難しいだろうが。
　そうして考えると……そのメンバーが、かの道化師を見つけることが出来たという幸運がどれほど凄い物か、分かってくる物だ。
「あ、あとね、もう一つ訊きたいんだけど……ナタクどこ？」
「アイツは夜のジョギングに行った」
「こんな所に来てまでジョギングを？」
「ついでに野生の熊と戦いたいとか言っていたな」
「それは無理だと思うなぁ…」
「同感だ」
　この辺りは…熊が住むような場所ではない。何度も来たことがなかったとしても、一日二日経てばある程度は分かってくる物である。
　と、そんな話をしていると、ふっとデスサイズが顔を上げた。
　それを認めて、ウイングはそちらに視線を向ける。
「どうかしたのか？」
「そうだ……そうだよな…」
「…デスサイズ？」
「……鬱憤溜まったら晴らしても良いんだよな」
　突然本気で何を言い出す。
　あまりに唐突な彼の言葉に呆然としていると、その間にデスサイズは立ち上がってクルリとこちらを向いた。
「そーいうワケだから行ってくる」
「どーいうワケなのそれ！？」
「だからな、ナタクは熊と戦いたいんだろ？でもいないんだろ？だから熊の代わりに戦ってやろうかと。ほら、オレって一応近接戦闘型」
　そこまで聞いてようやく、ウイングはどういう事なのかを理解した。露天風呂の一件で溜まった諸々の鬱憤を、どうやら彼は体を動かすことで解消しようと考えたらしい。分かりやすくシンプルな解消方法に、思わず笑みを浮かべた。やはり彼はこうでなくては。
　隣を見ればサンドロックも同じような表情で、しかしそれには気付かない様子のデスサイズは視線を既にこちらから外していた。
「んじゃ行ってくるな」
「怪我しないようにね」
　サンドロックの言葉に、デスサイズは笑ったようだった。

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ごめん、ナタクとの組み手で思い切りストレス発散させてくだされ。