「お願いがあるんです」
唐突にそう言ったのは自分たちの中でも最年少の少女。
真剣な様子のアーチャーを前に、ケルディムは頬をかいた。
これは……少し、無理難題を吹っ掛けられそうな気がする。
そんな予感が頭の中をよぎるどころか居座るようにどっかりと腰をおろしてしまったのだが、そうだとしても何も聞かないうちから『嫌です』などと言う事が、自分の性格上出来るワケも無く。
息を吐いて、促す言葉を口にする。
「……何だ?出来る事ならどうにかしてやるつもりだけど」
「ダブルオーをどうにかして欲しんです」
「……は?」
「セラヴィーは良いんです」
ぽかん、と口を開けたケルディムに構う事無く、若干不機嫌そうに、それ以上に深刻そうに、アーチャーは言葉を紡いだ。
「彼は怒りっぽいだけで、別に兄に悪影響を与えたりはしないですから。ハロの事は頼んだところで貴方には無理でしょうし。スローネどもは次男末っ子が確実にアウトですが、まぁ会う事が少ないので大丈夫でしょう。けれども、ダブルオーは違うんです」
「あぁ……そう言う事」
彼女の言葉の中にあった『兄』という言葉により、ケルディムは完全に納得させられた。
アーチャーは本人の前では口にする事は殆ど無いのだが、アリオスの事を兄と形容する事があった。そして、どうやら彼女は、のんびりしすぎな『兄』が心配で心配で仕方が無いらしいのである。
確かに、ダブルオーはよくアリオスを厄介事に巻き込む。それはきっと、ケルディムは保護者的観念から、セラヴィーは普通に止めて欲しいと思う事から、彼の話に乗ろうとしないからなのだろう。自然と頼みを断れない方に話を向けると言うだけの事、なのだ。
ちなみにハロは、ダブルオーが誘う事をしない。ケルディムの相棒は、場合によっては誰よりも恐ろしい味方になりかねない存在であり、賢明にも巻き込む事を回避しているらしい。
それを知った時の安堵と言ったら、本当に……。
「けどな……それは俺じゃなくてダブルオー自身に言えよ」
「いえ、彼が素直に聞くとは思えないので」
「そりゃ否定しないけどな、俺だってアイツを抑えるのは無理だ」
「そうですか。残念です。ではこれからもダブルオーの事、お願いします」
「え?」
「では」
ぺこ、と頭を下げた後、ケルディムが何かを言う前にアーチャーはその場を立ち去った。
ケルディムは、こうなると仕方なく抑えに行くお兄さんだと思います。