19.カーテンの隙間から
静かな、風の気配にアレルヤは目を覚ました。
風の吹いてくる方向を探し、どこから吹いてくるのかを確認したアレルヤは微笑んだ。なんと言うこともなく、昨日は暑くて寝苦しかったからと、開いていた窓から風が入っているだけだった。
今はまだ閉められたカーテンの隙間から、流れてくる優しい風。
それを感じながら、ゆっくりと起き上がって日付を確認する。
「休暇も、あと二日だね」
『人殺しのマイスターが休暇ってのも変な話だけどな』
「……それもそうかもしれない、けどさ」
体の内から響いてきた片割れの言葉にシュンとなると、だから、と少し苛立ったような声が再び届けられた。
『お前はそうイチイチ落ち込まなくて良いんだよ』
「…だってハレルヤが、落ち込ませるようなことを言うんじゃないか」
ならば、ハレルヤが言わなければ良いと思うのだ。
口には出さずにそう考えたのだが、突然に動いた自分の右手がピンとアレルヤの額を弾いた。力加減も何もあった物ではないそれに、痛くて思わず目を瞑る。
「いったぁ……何するんだよハレルヤ!」
『バーカ。俺がお前に気を使うんじゃなくってな、お前が俺の言うことを受け流せるようになりゃ良いんじゃねぇか』
「それは無理だよ、ハレルヤ」
『断定かよ』
「だってさ、ハレルヤの言うことは正しいもの。それが分かっているのに聞き流せるわけ無いじゃないか」
アレルヤは甘い。それは自覚とともに確かにある事実だ。
対してハレルヤは、きちんと状況を把握する。
情に流されがちなアレルヤと違って、ハレルヤはしっかりと状況を理解した上で、どうしようかと考え決めることが出来るのである。……いやまぁ、状況を理解した上で、大丈夫だと判断したときに色々と非道いことをしているのはいただけない、のだが。
そこも全て纏めて『ハレルヤ』なんだろうなと、ちょっと思っているのだ。
「それよりもさ、今日はどうする?やることないって暇だね…」
『本とか持ってきてたじゃねぇか』
「あれは初日に全部読み切っちゃった」
『……すげぇ根詰めて読んでると思ったらそういうことか』
「面白かったんだから仕方ないよね?」
そよそよと、まだ流れてくる風を感じながら、アレルヤは微笑んだ。
「…いっそのこと、今日はずっと眠ってみよっかな」
『無理だろ。もう目ぇ覚めてんじゃねぇのか?』
「でもね…何か起きるのも勿体なくって。風が気持ちいいから」
『風?…あぁ』
何だ?と疑問を抱いているような声も直ぐに納得に代わり、次に現れたのはいつもよりも穏やかな気配。
それを感じ取って、アレルヤは何だか嬉しく思った。これはつまり、ハレルヤもそれが良いと感じている証拠だったから。そして、それは本当に滅多にないことなのである。彼は平穏よりは刺激を求めるから。
「たまには良いでしょう?」
『…たまにならな。いつもこれだったら面白くねぇし』
「面白くないって…そういう話でもないと思うんだけど」
やっぱり、彼が求めているのは平穏より刺激らしい。
苦笑を浮かべ、それでも休暇の間はちゃんと平穏に付き合ってくれる片割れがとても嬉しい。何だかんだで、結局付き合ってくれる彼はとても素晴らしいパートナーなのかもしれなかった。
そんなことを差し引いても、彼は自分にとって掛け替えのない片割れなのだが。
ふぁあ、と、考えごとをしていたのに何だか眠くなってきた。考え事をしていたから、なのかもしれないがそれはそれというものだろう。
「…眠いから寝ようかなぁ……」
『は!?お前、さっき完全に目とか覚めてなかったか!?』
「……何か眠くなった。風効果?」
『風効果って何だ、風効果って』
「あのそよ風の風効果……大丈夫だよ、一日中寝ててもお客様なんて来ないし」
『そういう問題じゃねぇだろ』
「…そういう問題なの……だから、僕……寝る…」
言い切って、そのまま目を閉じると途端におそってくる睡魔。
それに身を委ねて、アレルヤは静かに意識を闇に落とした。
明日に20をUPしようかな…連続更新とか、たまには。
とりあえず、この二人にだって平和を満喫して欲しいのですよ。