「これでお別れだね……アレルヤ」
「うん。けれど、また遊びに来てね」
残念そうなリボンズの手を握って微笑むと、ふいに足に走る痛み。隣に立っていたソーマがそれとなくアレルヤの足を踵で踏みつけたのである。幸い小指が狙われたわけではなかったから、痛みもほどほどで済んだ。
今、アレルヤたちがいるのは小さな艦の収納されている場所だった。ここに彼らが移動の際に使った艦が放置……もとい置いてあったのだ。しかも全然隠すこともせずに平然と。滅多に使わないフロアだったから問題なかったようだが、場合によってはかなり大事になっていたのではないだろうか。
やっぱり、事前の打ち合わせは必要なようだ。
何となくそんなことを思っていると、再び足に鋭い痛み。今度は容赦なく右足の小指である。先ほど以上の痛みに顔をしかめると、それを見とがめたらしく、ヒリングが、あー!と叫んだ
「ちょっと!何やってるのよアンタ!」
「当然の報いだろう。人に意見も聞かずに勝手に物事を決めて……私たちが今回、どれほど苦労したと思っているんだ?」
「良いじゃない!借りてきたネコみたいに大人しくしてたんだからさ!」
「借りてきたネコ!?あれのどこがだ!」
「全体的に見てよ!分かるでしょ!?」
「分かってたまるかッ!」
「…二人とも落ち着いてください」
一触即発の二人の間に、呆れ顔のリヴァイヴが割って入った。
「お別れの場でまで争うのは止めましょう。言っては何ですが、見苦しいです」
「…言うじゃない。会う直前までうだうだ悩み込んでた男が」
「なっ…そ…それは関係ないでしょう!」
じっとりとヒリングに睨まれ焦るリヴァイヴ。彼女の言葉から誰かに会っていたらしい事が分かったが、一体誰に会っていたのだろう。ちょっとだけ気になる…から後でコッソリ訊いてみようか。教えてくれるかは五分五分だけれど。
今度はリヴァイヴをターゲットにしたヒリングから苦笑と共に視線を外し、次に見たのはリジェネの方。
こちらはティエリアと遊んでいた。正確にはティエリアで遊んでいる、というのが正しいのか。良く分からないけど。ともかく、分かることと言えばティエリアがそれほど乗り気でないことだろうか。
ちなみにこの場に刹那、ブリング、デヴァインはいない。三人とも艦の方に行っていて、調整を行っているらしい。一日でも放って置いたのだから、少しは確認しておかないとという話らしい。刹那まで一緒にいったのは他でもなく、監視のためだと言うからちょっと思うところはあるのだけど。別に何もしないと言えば何もしないと思うが、それは自分だから思うことらしい。
何だかやっぱり、人付き合いとは難しいと思う。
「ねーねーアレルヤー」
と、ふいにティエリアの所からこちらへふらりとやってきたリジェネが、どんっとアレルヤにもたれかかった。
いきなりのことに僅かに体勢を崩したが、直ぐに直してリジェネを見る。
「どうかしたの?」
「今度はアレルヤが遊びに来てよ。その方が絶対良いから。それに…」
「それに?」
「僕らの方に君が来るなら、こんな監視もいらないと思うしね」
肩を竦めながら言う彼。どうやら監視はお気に召さなかったらしい。誰だって四六時中監視され続ければ嫌だと言うだろうけど、この元来自由人であるイノベイターには余計に面倒な物に思えたのかもしれなかった。
けれど。
「でも、ティエリアと一緒にいれたのは良かったでしょ?」
「うん。そこは不幸中の幸いってヤツかな、楽しかった」
「なら文句は言わないこと。監視って名目じゃなかったら、もしかしたらティエリアは傍にいなかったかもしれないんだから」
「……なのかなぁ…」
「間違いなくそうだな。そうでなくては、僕がどうしてわざわざ君のために時間を割かなければならない」
いつの間にか近寄っていたティエリアが腕組みしながらため息を吐いた。
「そういうわけだからとっとと帰れ。艦の準備も終わったようだしな」
「…しょうがないなぁ。じゃあ、また近いうちに会いに、」
「来るな」
ピシャンと音が鳴りそうなほどすっぱりとリジェネの言葉を切って、ティエリアは早く行けと言わんばかりに艦から出てくるブリングとデヴァインを指さした。一緒に刹那も出てきたが、多分彼の指さした対象の中には入っていないだろう。
それを認めてぞろぞろと艦へ向かうイノベイターたちに、アレルヤは笑みながら言った。
「また遊ぼうね!」
それが何時になるかは分からないけど。
いつか、また。
アレルヤに始まりアレルヤに終わる。
そんな感じの最後を目指して…。
もちろんこれからもイノベイター書いていきますけどね…終わりっていうのは何かやっぱり思うトコありますね。