滞りはあった物の、仕事はとりあえず無事に終わろうとしていた。
幸村が壊した焼き物の破片を拾いつつ、売り上げの確認をしている元就の方を向いた。
「元就ー、売り上げはどんな感じだ?」
「ふむ…意外な事に赤字では無い」
「…あれで、か?」
「慶次が口説いておった者たちがおろう、あやつらが色々と買っていったようなのだ」
「…へぇ」
それは驚きだ。益にも不利益にもなっていないと思っていた存在が、どうやら一番の功労者だったらしい。
「すげぇじゃねぇか、慶次」
「へへっ、だろー?俺もちゃんと頑張ってんだよ」
「政宗、おらも頑張っただ!」
「そうだな、いつきもよくやった」
褒めてくれと言わんばかりの雪女の少女の頭にポン、と軽く手を乗せると、彼女はとても嬉しそうに笑った。竜と雪女としての関係以外にも、純粋に褒められたことが嬉しいのだろう。そういう感じの笑みだと思った。
ちなみに、この二人以外に褒められる相手はいない。自分は客寄せには一役買っていたようだが結局佐助に仕事をさせてもらえなかったし、元就は料金は払い済みとはいえ店の物に手を付け続けていたし……あぁ、もしかして黒字の理由の一つには元就も入るのだろうか。もっとも、それでもやはり褒められるような事はないのだが。
そして、当然ながら怒られるべき相手もいる。
それに該当する二人の内一人は、店の奥で正座をさせられて、しょんぼりとしながらも佐助の説教を聞いていた。真面目な幸村のことだ、自分でも悪いと思っているのだろう。
だが、佐助にも怒る事は出来ない相手もいるわけであり。
己の分を弁えているからこその対応だから、政宗は彼の対応については何も言えない。一緒に叱ってやればいいと本気で思うし、ついでに雷でも落とせば良いんじゃないかと思うのだが、そういう風に考えることは出来ないのだろう。そもそも実問題、彼に雷は落とせないだろうし。
まぁ、鬼相手にそれをしろというのも酷な話なのかもしれない。
竜として生まれついた自分には到底分からないことだが、恐らくそう言うことだろうと見当を付けて、とりあえず。
手に持っていた焼き物の破片を元就の隣で不機嫌そうにしている元親に投げつけた。
投げた破片は軽い気持ちで投げたにしては鋭く飛び、このようなことを予測できたわけもない元親の額に突き刺さった。
ざくっという音と共に、突き刺さったところから流れる赤い血。
「…おーい、政宗さーん」
「何だ、元親」
「……何だコレ」
「破片。投げたんだよ。見りゃ分かんだろ」
「分かるぜ?分かるし、勝手に安売りしたのは悪かったとも思うけどな?」
…あぁ、どうして投げられたのかの理由は自覚しているのか。
「けどなぁ…突然投げるこたぁねぇだろ!」
「投げたくなっちまったんだから仕方ねぇだろ」
「んなっ…」
「投げられたくなかったら安売りなんてしてんじゃねぇよ」
言い捨てると、がくりと項垂れる鬼。
……こんなのをどうやって恐れろと言うのだろうと、政宗としてはそれが不思議でしかない。強いことは認めるが、別に何もしなければこうも無害だ。
何かして有害になったときは、それは何かした方の自業自得だから何も思わないけれど。
「おやおや…もう店じまいなのですか?」
けれども…何もしなくても有害なのも、やはり存在するわけで。
用事もないだろうに何でコイツはここに来たんだろうと政宗は、店の入り口の方を見た。
「何の用だ、明智?」
「いえいえ、竜が従業員をしているという話を聞いたので、少し見物に」
「相変わらず暇人じゃねぇか」
「私が暇人でなくなったら大変なことになりますよ」
「違いねぇ…けどな」
はぁ、と政宗は息を吐いた。
後ろから、何かとてつもない敵意が漂ってくるのだが。
対して敵意を向けられている明智も、挑発するような笑みを浮かべており。
……こちらも相変わらず、仲が悪い。
昔からこうだったと思いつつ、政宗はつかつかと明智の方に寄っていって、目の前くらいで立ち止まってニコリと笑ってやった。
それに訝しそうな視線を向けた彼が、気付く前に右手に雷撃を纏わせて相手の顔を鷲掴みにした。今の自分でも、こうやって雷を食らわせて気絶させるくらいは出来る。
そして自分の加減通りに彼はがくりと崩れ落ち、その襟首を掴んでくるりと店の方に向き直る。
「佐助、バカ連れて帰るから早引きしても構わねぇか?」
「…行っちゃってくれる?竜に鬼に、蛇までいちゃあ俺様も気が気じゃないしね」
「そうかい。んじゃ行くわ」
明智を引き摺って、政宗は歩き出した。
後ろから、いつもの二人が追いかけてくるのを感じながら。
竜と鬼と蛇は腐れ縁トリオです。
元就は途中参加。