「今更ながら言わせてもらうけど、ねぇ、六爪って使いづらいだけじゃない?」
「……お前、まさかそれを言うためだけにここに来たとか言い出さねぇよな?」
「あれ、言ってなかったっけ」
「紛う事無く初耳だってんだよ……ったく」
適当に見繕って持って来た茶菓子を正座で大人しくしていたらしい半兵衛に渡し、残り二皿をすぐ傍に在った机の上に置いて座る。
それから机に肘をついて頬杖を突き、政宗は呆れと共に行きを吐きだした。
「一応、お前らのとことは敵対中みたいな感じだろうが」
「ま、一応そんな感じなのかな。僕からしてみれば、そんな相手に茶菓子を出してる君も君だと思うけど」
「ほっとけ」
それを言うなら、そんな事を言いながら受け取った団子を普通に食べている半兵衛だって問題だろうに。一応と付けながらも敵対を否定しなかったくせに、敵の領地(仮)にいる軍師がこんなんで良いのだろうか。
毒とか考えないのかと思っている間にも団子を食べ切った彼は、机の上に在った二皿の内の一つに手を伸ばした。ちなみにもう一皿は、それを見てこっちで確保した。自分の分まで食べられてしまってはかなわない。
当たり前の様に今、ここにはいないもう一人のために持って来た茶菓子を食べながら、半兵衛は特に困った様子も無く口を開いた。
「……っていうか僕らの勢力、基本的にどことも仲良く無いからねぇ……敵対って言うなら君たちのとこだけに言える話でもないよ。四面楚歌なんて話じゃないし」
「それでそこまで余裕な顔ってのも腹立つな……」
「それはどうも」
「褒めてねぇよ」
「いいや?最高の褒め言葉だよ?」
ついに二皿目を空にして、彼はニコリと笑った。
「で、政宗君は何でそんな扱いづらそうな刀の使い方してるの?」
「意地でも訊く気かお前」
「まぁね。訊いて帰らないと、大阪から奥州まで、この遠い距離を一体どうして馬を走らせてきたのかと言う事になってしまうし」
「……ふぅん」
徒労はお嫌いらしい。
まぁ、そんな事を言ったら誰だって徒労なんて物は嫌いだろうけども。
しかし、だからといって教えてやる必要は無い。というか六爪に関してなんて、そもそも教えられるようなこともないのだ。何となく自分にはそのやり方がピッタリだったと言うだけの事で、今だからこそこだわりもあるけれど、昔だったら止めろと言われたらもしかしたら止めていたかもしれないくらいの物なのである。
だから、そんな事を問われても困るのだ。答えたとしても、彼が満足できるような明確な答えなんて、残念ながら自分は持っていないのだから。
ただ、まぁ。
「半兵衛、」
「ん?何かな」
「お前、六爪使わない俺ってどう思う」
「どう思うって……そうだね……」
その質問に返された質問に少し眉を寄せた半兵衛だったが、それでも考え込むそぶりを見せる所、結構律儀だった。
そして数秒後、結論が出たらしい。
どこか苦笑気味に、彼は言った。
「……それは最早君じゃないね」
「つまりそう言う事だろ」
そして、それで納得してくれないなら自分はもう、彼に対して納得してもらえる様な言葉を与える事は出来そうになかった。
幸い、どうして六爪なのかについて答えようとしない自分に少し飽き飽きしていたらしい半兵衛は、それで事を治める事にしたらしい。それ以上は何も問わず、空になった皿二枚を重ねて机の上に置いた。
もちろん、それでも彼の口は開くわけであり。
「徒労は嫌なんだけどね……今の答えをもらえただけでも良しと言う事にしておくよ。あと、彼の茶菓子を奪ってやれたっていう収穫もあったしね」
「茶菓子を奪ってやったって……子供の喧嘩かよ」
「良いじゃないか、子供の喧嘩で。大人の喧嘩よりはましだろ?」
「子供の喧嘩の方が酷い事になんだろーが」
「そう?規模が小さくて被害も少ないし、大人のよりはましだと思うんだけ、」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
と、半兵衛の声を遮って、たった今部屋に入ってきた慶次の叫び声が響いた。
耳を塞いでその大音量をやり過ごし、若干涙目の、もう一人の客人の方を見る。
が、彼の方はこちらに見向きもしないで、空になった皿と半兵衛を見るばかり。
「半兵衛酷ぇっ!俺の団子まで食べるなんて普通ねーだろ!?」
「酷くないよ。早く戻らない君が悪い。で、お茶はちゃんと持って来たのかな?」
「ちゃんと三人分持ってきたよ!けど、こうなったらお前には渡さないからな!」
「へぇ……そんな事言うんだ。空気のくせに生意気だね」
そうして聞こえてきたやり取りに、今回は大人の喧嘩と子供ん喧嘩のどちらが開催されるのだろうと、出来れば大人の喧嘩が良いと思いながら、政宗は二人を眺めるのだった。
子供の喧嘩=被害発生。
大人の喧嘩=被害は免れ。