孫権たち中学組は部活動で帰るのは夕方を過ぎた頃と予測されていて、呂布は相変わらずふらりとどこかへ出かけていき、父は久々の休日とゆっくりとしている。
家の中がそんな状態であった上に、少し暇を持て余してもいたこともあって、夕食の材料を買いに商店街へ行く曹操に、荷物持ちとして着いて行くことにした。
そして辿りついた目的の場所の入り口で。
そういえば今日は七夕だったな、と、孫策は改めて思い出した。
各々の店舗の前に置かれている小さめの笹と、商店街の中心に置かれているやや大ぶりの笹、それに付けられている輪飾りや短冊を見渡し、最終的に、直ぐ傍の店舗に貼ってあったポスターに目を止める。
「『3000円以上購入のお客様には金平糖一瓶を進呈いたします。対象となるレシートを持って商店街中央の案内所までお越しください。目印は巨大な笹です』……か」
軽くポスターの内容を読み流し、ふむ、と呟く。
金平糖、というものは、我が家においてはあまり馴染みのない代物だ。菓子と言えばスナック菓子でたまにクッキーなど、といった様子なので、思い返す限りでは、この砂糖菓子を家で食べたことなど両手で数えることができるぐらいしかない。自分自身スナック菓子の類が好きな方なので、それは別に良いのだが。
そういった、縁遠いものである金平糖を持って帰ったら、皆がどのような反応を見せるのか。それに、ほんの少し興味が湧いた。
となれば、黙っていることはない。
あっさりとこのイベントをスルーしてしまいそうな同行者の肩を叩き、問う様に向けられた視線に対し、ポスターを示して見せる。
曹操はそれをちらりと見て、そのまま目をこちらに向けた。
「何だ、興味でもあるのか」
「うちではあまり食べないからな、たまには良いんじゃないかと思ったんだが」
「全員でつまめるほどの量があるとは思えんがな」
「……そこは何とも言えんが」
3000円のおまけとはいえ無料で手に入る品である。量に関しては……あるいは質に関しても、あまり期待するべきではない。金平糖の一つ一つの大きさについても、それは同様だ。けれども、一人一粒ぐらいならあるのではないだろうか、ぐらいの希望的観測は持っていても許されるだろう。
実際は、ギリギリ一人分足りないとか、そんな事になりそうな予感はあるのだが。
「まぁ、あっても困るものではないだろうし、あまりにも少なかったら尚香に全部やればいい。それに、どうせ今日の食費も3000円ぐらい越えるんだろう?」
「人数が多い上に大食いが何人もいるからな」
越えもするだろう、とため息交じりに吐き出された言葉に思わず顔を逸らす。……彼の言う大食いの中に自分も入っているだろうことは想像に難く無かった。
「と……ともかくだな、どうせ交換の権利は得られるのだから、その権利を使わないのは勿体ない。もらえるものはもらっておけばいいだろう」
「別に構わんが。……あぁ、そうだ、折角だから今回は貴様が何を買うか決めろ」
何気なく投げられた提案に、ぱちぱちと瞬く。
「何を買うかって……夕飯の材料か?」
「作るのは貴様だろう。たまには自分の作りたい物を選べ」
そう言われて、腕を組む。
普段は彼が買ってきた材料に従って夕食を作るので、その辺りのことを考えた事はあまりない。これが作りたい、とあらかじめ伝えることもありはするが、そんなことは稀だ。
だから、彼の言う事も分かるのだ、が。
「……急にそんな事を言われても、特に何も考えていないぞ」
「売り場を歩きながら考えれば良いだろう。何なら口出しもしてやる」
「それは心強いな」
そう言って笑い、商店街に足を一歩踏み入れた。
で、うっかり5000円ぐらい買っちゃって、案内所の人に金平糖の小瓶二つもらう二人とか。
二瓶あれば全員分はあるでしょう、たぶん。