ゴッドとの組み手が終わり、帰る最中に根気の尽きたナタクは、偶然見つけた木陰で休息を取っていた。少し休めば直ぐに動けるようになるだろう。
ふぁ、と欠伸をしつつ気にもたれ掛かり、ボウッとしながらも呟く。
「デスサイズか」
「……あ、やっぱりバレる？」
ちらりと視線を後ろにやると、木の影から現れるMS。
イタズラのばれた子供のような顔をしている彼に、フッと笑って言葉を返す。
「当然だ。どれだけの付き合いだと思っている？」
「だよなぁ……とりあえず、お前とウイングにだけは絶対にバレるんだよな…サンドロックとヘビーアームズだってかなり察する方だし」
「慣れれば誰でも出来るだろう」
「んな簡単にできてたまるかよ……こっちは結構、本気で気配を消してんのに」
「修行が足りんだけだ」
「お前は修行しすぎだけど……で、今日はどこらへんの怪我が酷い？」
そう言ってデスサイズはナタクの横に座り、手に持っていた救急箱を地面に下ろした。
手当をされる側のナタクは素直に今日の主な負傷箇所を彼に伝えた。そうしなければちゃんとした手当は受けられない。
腕を出せと言われて素直に右腕を出し、巻かれていく包帯を眺める。
「やはり、二人分の手当をしていれば上達もするか…」
「それこそ当然、だろ？てかお前ら怪我がかなり酷い部類の物だからけだからな……嫌でも包帯巻きは習得しないと手当のしようがないし」
「成る程……」
包帯の巻かれた腕を組んで、ナタクは昔の事を思い出した。
「……一度、自分で手当をしてみようとしたこともあったな…」
「あ、そうそう！それ！」
足の方に巻かれていた包帯をギュッと締め、ジトッとした目で彼は自分を見た。
「それのせいでオレ、結構大変だったんだけど……？」
大変なこと、というので首を傾げ、救急箱が見つからなくてサンドロックに借りたとかいうあの時の話だろうと見当を付ける。確かに大変だったろう、が。
「…一部始終は聞いている。別に……あれで良かっただろう。あれはあれで一件落着だと思っているが。どうせ、遅かれ早かれ事態は動いただろうに」
「いや、オレの性格考えたらそれはそうなんだけどさ！…こっちとしても心構えとか心の準備とか…」
「両方同じだと思うが」
「…とにかく！いきなりコトが動いてオレは大変だったの！」
ズビシ、と指を額に突きつけられながらも、ナタクは言う。
「収まったのだから良いだろう。終わりよければ全て良し、だ」
「……うん、かもなぁ…」
はう、と息を吐いて、デスサイズはくたんと脱力した。
その様子を見ながら、思う。その時大変だったのだとしても、今、充実しているのならばそれで良いだろう、と。
というか、充実してなければ困る。
何故なら充実していなかったとして、それは『わざと』救急箱を取っていった自分の行動によって作られたチャンスが、みすみす無駄にされてしまったということに他ならないからだ。
確かに、手当の練習をしようと思ったのは事実だが、一番の目的はその点だった。とにかく何でも良いからキッカケを作り、接近してもらえば後はなるようになると考えてやったのだが……案の定だった。
自分は恐らく、バカとか言われる方なんだろうとは思う。
だが、だからといって何にも気付かないわけでも、感じないわけでもないのだ。
「…そういえば一つ、訊きたいことがあった」
「ん？」
「どうしてオレの練習を止めた？」
練習、というのは包帯を自分で巻く練習。自分で出来るようになれば彼に掛かる負担も少なくなるというものだろう。なのに、止められてしまった理由は何なのか。
首を傾げていると、呆れの表情を浮かべてデスサイズが溜息を吐いた。
「お前、塗り薬を間違えて飲もうとするヤツに、どうして手当を任せられると？」
「……あぁ、そんなこともあったな…」
「あったな…で済ますなよ！」
ツッコミを入れられたが、ナタクは少し笑った。
何だか、とても楽しい気分だった。
これは目論見が成功したことを実感し直したからだろうか。
あるいは、今のこのやり取りを楽しんでいるのだろうか。
実際は……どちらでも構わなかった。
今が楽しい。その事実こそが大切なのだ。
「デスサイズ……現状はどうだ？楽しいか？」
「突然、何言い出すんだよ……んー、けどま、そう訊かれたら」
笑顔を浮かべて、彼は続けた。
「楽しいんじゃない？」
「そうか……ならば良い」
それで良い。
それが良い。
ナタクは頭が悪いだけだよと言ったら悪口ですね。
えっと…つまり、バカだけどバカなだけじゃない、というか…そういう感じに言いたいのです。
うん、そんな感じだったら良いなぁとか思いました。
