16.ドアの向こう側
その扉を、私はくぐれなかった。
ほんの少しずれた場所にいただけで。
ほんの少し外れた場所にいただけで。
ほんの少し離れた場所にいただけで。
人はそれを『幸運』と呼ぶ。
たった一人の生き残り。
生き残って、取り残された。
たった一人の生存者。
それを幸せだと人は言う。
けれど、取り残された悲しさを。
取りこぼされた哀しさを。
彼らは肯定し、その上で『幸せ』だと微笑むのだろうか。
生きている、呼吸している。
それだけで幸福である事は分かるけれど。
生きている、動いている。
それだけで幸運である事は分かるけれど。
生きている、一人でいる。
それが悲しい事である事に変わりはない。
せめてあと一人、もう一人いてくれたら違ったのだろうか。
ぼんやりと思うけれど、大して変わらないのではないかなと、結論は既に出ていた。
だって、哀しさが二倍になるだけだから。
だからもしかしたら、一人なのは幸せ事なのかもしれない。
悲しみが増えないから。
一人なら……
「 !」
ふと、聞きなれた声が聞こえた気がして、ゆっくりと顔を上げる。
そうして見えたのは。
ドアの向こう側からやって来た、その人だった。
これが、寂しさが二分の一になった瞬間の、話。
沙慈の到来で救われた部分もあったと思うのです。