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「いたたたたたたたたっ!ちょ、ヴァーチェ、ギブギブギブギブ!腕もげるそろそろ本気でもげるから痛いってばぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「黙れ」
「あぁぁぁぁぁぁ!?力それ以上入れないで!本気もげるからーっ!」
体を張った漫才のような、笑うには少しいきすぎている気がするやりとりを眺めながら、刹那は壁際によって壁にもたれながら座った。
宿にいるメンバーに事情などを話しに行きたくないかと言われれば、もちろん答えは是である。が、どうせ彼らの所に戻ったとしても状況に変化があるわけもない。自分には普通でない能力がある。だが、だからといってそれを使って彼らに記憶を伝えることは出来ないのである。
何故なら、自分が使えるのは異端の力を消す、というだけの力である。
それは、応用が不可能な使い勝手の悪い力。マリナのような力なら、もっと使い勝手も良かっただろうにと思うのだが。そこは何を思ったところで意味はないだろうが。
「刹那、お前帰らなくて良かったのか?」
「問題はない。あちらはあちらで上手くやっているはずだ……それよりも」
「何だ?」
「朝食が取れていない方が辛い…問題だ」
そう。刹那は、そういえばまだ朝食を取れていない。しかもその上、今の時間帯はほとんど昼食の時間帯なのである。正直、宿に戻ることについてよりも、そちらの方が自分にとっては重大な問題だった。
「どうにか出来ないだろうか…」
「あー…今な、ここに食べ物無いからな…」
「無理」
「そうか…」
申し訳なさそうなデュナメスの言葉と端的なダブルオーの言葉に、さほど落胆もせずに刹那は頷いた。それなら仕方がない。彼らだって条件は殆ど一緒なのだから、自分だけ凪ごとを言うわけにもいかないだろう。
となると……残った自分がやるべき仕事はただ一つ、ということか。
改めて立ち上がり、刹那は未だにセラヴィーへと関節技をかけているヴァーチェの方を向いた。
「そう言うわけだから俺は外に出てくるが……良いか?」
「構わない。荷物持ちにダブルオーでもデュナメスでも連れて行け。ただし片方は残せ」
片方残すのは、分からなくはない判断だった。
分かった、と答えるとしかし、セラヴィーが声を上げた。といっても今の話についてではなくて、ただ単にヴァーチェへの苦情だったが。
「れーせーに人に指示を出せるならさ、今の僕の状況に対してもれーせーに考えて!何かからだがぎしぎし言ってるんだよ!?勘弁して!」
「自業自得だろうが。勝手にはぐれるなど」
「だーかーらー、もうそれは悪かったって謝るからーっ!」
「なら土下座でも何でもしてみろ」
「この状況で!?無茶言わないでよヴァーチェ!」
とんでもない、と叫ぶセラヴィーに、それはセラヴィーの方が正しいだろうと頷き、それでも何も言わないままにダブルオーを促して一緒に外へと足を向ける。デュナメスはいた方が良いだろう。ダブルオーでは無理でも、デュナメスならあるいは二人が行きすぎたときのストッパーになるかもしれない。
「頼んだぞ」
「おー。ま、適度に頑張るぜ」
「武運を」
「ダブルオー、これは武運系の話じゃ無いんだけどな?」
けど、ま、合ってると言えば合ってるのか?
頬をかきながらデュナメスは苦笑し、ひらりと手を振った。
それに刹那も手を振り替えし、ダブルオーと一緒に外に出た。