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「思い出した……って、何を」
「分かってるだろ?」
頭を上げると、呆然としたライルの表情が目に入った。
それはそうだろうと、ニールは思う。突然現れて、突然謝罪されて。こんな展開に驚かない人間は……いや、『ひと』はいないに違いない。
だが、全てを思い出してしまった身としては、これは当然の展開なのである。
彼には悪いが、やっておかねばならない事柄だったのだ。
アレルヤが何かをして、どうにかなっていたらしい記憶を元に戻してくれた時、何の弾みかは知らないが鍵が、カチリと開いたような気がした。それは数日前、アレルヤの記憶の世界……のような所に行って、ドアを開いたのと同じような感じがして。
その時に、分かったのだ。
自分の中にも『そういう』記憶があるのだと言うことに。
「…お前が、人殺しなんて仕事に就いた理由は、これで分かった」
「兄さん…」
「それから、ある時期を境に俺のことを完全に避けるようになった理由も、な」
「……」
無言になったライルは、気まずげな表情をするでもなくこちらを見た。それは、彼が気まずくなるような事がどこにも無いからだろう。むしろ、気まずいのはこちらの方だ。
自分を彼が避けていたのは、全てをライルは知っていたから。だから、隣人たちの『異端が家族を殺したのだ』という推測を鵜呑みにして、狩人になんてなった自分を許せなかったのだろう。あまりにもそれは、見当違いの敵意だ。
それに両親の話。
成る程、これを忘れられてはたまった物ではないと、表情には出さないがニールは苦々しく思った。これは、流石に。
あまりに酷い親だ。
そして、あまりに非道い親だ。
思い出してしまうと、あれほど誇りに思っていた父親を、尊敬していた母親を、今度は正反対の目でしか見れなくなってしまう。つまり、憎悪や忌避の目で。
それだけのことを、あの二人は……正確に言うと、あの二人が属していた場所は行った。
そして、その被害者は実に身近な場所にいたのだ。
最近であったのだと思いこんでいた、昔に会ったことのあった。
そこまで思って、やはり顔には出さないが苦笑を浮かべたい気持ちになった。
酷い、非道いと親を非難しているが、何てことはない。
一番非道いのは自分ではないか。
「許してくれとは言わない。けどな……」
「兄さん」
「ん?…っぶ!?」
「まず頭とか色々拭いた方が良いんじゃないか?その後だろ、話は」
投げられたバスタオルを頭から引きはがすと、その時には既にライルはこちらに背中を向けいた。今はもう、話すことはないと言うことか。
「…分かった。後で、だな」
「着替えはそこにあるのを使って良い。サイズ一緒だろ?」
じゃあ、と結局今回は最後まで名前を知ることが出来なかった誰かと一緒に遠のいていく弟の背中を眺め、見えなくなったところでニールは水の中から外へ出た。
じゃあ、後で。
その言葉に、ほんの少しだけ笑みを浮かべながら。
また後に、会えると言うことは良いことだと思いながら。