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連続して椿のお題。…だって、書きやすいんだから仕方がない。
とりあえず、シーリンさんが議員になった後くらいの話だと。
08.水族館
「……これ、食べられるのかしら」
「ちょっとマリナ!?まさか貴方…」
「冗談よ、シーリン。私でも流石に、水族館の魚まで食べようとは思わないわ」
「……なら良いけれど」
大丈夫だと口にしてようやく安堵の表情を浮かべるシーリンに、自分はそんなに食べたそうな顔をしていたのだろうかとマリナは首を傾げた。自覚という物はあまり無いのだけれど、彼女の反応を見る限りでは、そうであるらしい。
まぁ、半分は本気だったと思う。だって仕方ないではないか。こんなにたくさん魚が泳いでいるのだから、その中の一匹くらいは食べないか……なんて思うのは。
何だかんだと言って、やっぱり貧乏性は抜けない。
もうこれは習慣のような物だから、抜く気もないけれど。
……それでも、今回はちゃんと素直に水族館という場所を楽しもうと、マリナは決意を新たにした。折角シーリンが連れてきてくれた水族館だ、楽しまなければ彼女に悪いし、損というものだろう。楽しめなかったら入場料が無駄になってしまうから。
「……マリナ」
「何かしら?」
「別に、お金のことは気にしなくて良いわよ?」
「あら…」
その言葉に少し驚く。確かにお金がどうのこうのと考えていたのは事実だが、一つも口には出していないはずである。
「…どうして分かったの?」
「顔見てれば分かるわよ…どれだけ長い付き合いだと思っているの?」
呆れた様子でシーリンはため息を吐き、そんなことを考えずに楽しみなさい、と続けた。
彼女の意見はもっともだ。アザディスタンにはまだまだ課題が残っている物の……少しの間なら遊びに出られるくらいには立て直された。だからこうして遊びに来ることが出来るのだが、今までなら考えられないことではある。なら、楽しまなければ損という物だろう……今回は金銭などは関係ない『損』だが。
それでもやはり、魚を見るたびに「食べれるのかしら?」と思ってしまうのは悲しい性、ということにしておこう。どうしてもそちらから思考は離れる様子を見せない。
「…仕方ないわ」
と、ここでシーリンは何かを決めたような表情を浮かべた。
「ペンギンを見に行きましょう」
「ペンギン?」
「それなら魚のように食べられるかなんて思わ…」
「ペンギンって言ったら鳥よね?鳥肉…ペンギンって食べられるほど肉がついているのかしら?大きいし、ありそうだとは思うけれど…」
「…マリナ、じゃあ、アザラシはどうなの?」
「アザラシ?あれも大きな生き物よね。あれも食べられるの?」
「……悪いけれど」
眉間を揉みほぐしながら、シーリンは呻くように言った。
「もう少し……そういう方面から思考を外す努力をしてみなさいな」
「無理よ。さっきから考えているけれど無理なの」
「……手遅れって事?」
「多分、そうなると思うわ」
先ほど『悲しい性』なのだと認めてしまった身としては、そうとしか答えることは出来なかった。本当に残念な話だが。
けれども、別に魚が綺麗だとか、そういう考えをも抱かないわけではないのである。ただ単に、食べられるか否かに関する思考がそれらよりも頭の中の広い面積を取っているだけであって。その面積をどうにか出来れば、どうにかなると思うのだけれど。
…その『どうにかする』というのが難しいのだろうが。
やはり……これにはあまり触れない方がいい気がする。
「それよりシーリン、お土産も買って帰って良いのよね?」
「え…えぇ。子供たちには何を買って帰るの?ぬいぐるみ?」
「いいえ。ここはやっぱりお菓子だと思うの」
「あぁ…あの、水族館限定品?」
「そう。水族館に来たからには水族館にちなんだ物が欲しいわ。けれどキーホルダーを買ってもお腹はふくれないし……だからお菓子よ」
「……やっぱりそういう思考なのね」
「もちろん。そうそう、枚数は出来るだけ多めで、少しでも安いのが良いわね」
さて、売店にはどんな土産品が置いてあるだろうか。今から結構楽しみだ。
ふふふっと笑っていると、ふいに水槽の中で泳ぐ鮮やかな魚が目にとまった。
「綺麗な色ね、あの魚。食べられるのかしら?」
「……」
「あ、でも毒があるかもしれないわね……難しいわ」
このマリナ様はどれだけ貧乏性なのだろうか…。