シークレット・メモリー 餅つき終了

あんな騒動が起こっても、何とか終わった餅つき…。
その後、試食の話ですね。

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　何とか搗き上がった餅を、二世の雨は満足に思いながら見ていた。
　いやはや、本当にここまでの道のりは長かった。小さな嵐は普通に手伝ってくれたから良いとしても、二世と初代のいつも通りと言えばいつも通りのケンカのせいで、大分時間が長引いてしまったのである。途中、本気で搗き上げることが出来ないのではないか、と思うくらいに。
　だからこそ、完成形態が目の前にあるのは実に喜ばしいことだった。
　搗き上がり、いくつもの丸に分けられた餅を見て、それを何も付けずに食べている小さな嵐のためにきな粉の入った入れ物を差し出す。中には先ほど初代の雨にやり方を教えてもらった通りに入れてある餅と、それから箸。
　きょとん、としている彼から汚れる前にとぬいぐるみを取り上げつつ、二世の雨は空いている手で白い粉が付いている小さな嵐の口元を軽くぬぐった。どうせこれからも汚れるだろうが、それでもとりあえず、だ。それから言う。
「これ付けた方が美味いらしいぜ」
「何コレ？」
「きな粉ってんだ。ま、とりあえず食ってみろよ」
「ま……お前がそこまで言うなら食べてやっても良いけど？」
　口ではそう言っている割に好奇心でキラキラと表情を輝かせている嵐に苦笑を浮かべる。やっぱり彼は『小さな嵐』だ。
　箸を渡された小さな嵐は楽しそうに箱の中の餅を取ろうと、したのだが…。
「……むぅ…」
「…あぁ、そういやお前、箸使うの苦手だったよな…」
「ほっといて！そのうちお前よりも上手になるんだからな！」
「そりゃ楽しみだ」
　けれど今から直ぐには無理だろう。
　このまま任せていては小さな嵐の服がきな粉などで大変なことになると判断した二世の雨は、彼からさり気なく箸を取り去って、自分が箸を使って取り上げた餅を小さな嵐の口元へと持って行った。
　小さな嵐はこちらの意図を察したようで、やや憮然とした表情ながらも大人しく口を開き、その餅に食いついた。自分ではまだ上手に箸を使えないと知っているのだろう。
　モグモグと餅を咀嚼しながら、小さな嵐は呟く。
「……いつか絶対に見返してやる」
「出来るもんならな。んで、どうだ？美味いか？」
「…不味くはないよ」
「美味いんだな。そりゃ良かった」
　今は少し箸に関しての話でふて腐れているから素直な言葉は返ってこないが、その状態での『不味くない』は『美味しい』である。
　二世の方にも持って行くか？と思い、チラリと二世と…初代がいる方に視線をやる。ちなみに初代の雨は後片付けを全て引き受けてくれた。本当は手伝おうかと思ったのだが、そうするとこちらで二世と初代と小さな嵐のことを見ている人間がいなくなってしまう。それはかなりマズイだろうと判断して、結局彼の好意に甘えてしまった。
　気にはされていないだろうが、後で埋め合わせか何かをしておきたいと考え……それどころではなかったかと思い出す。
　言っても聞かないだろうが…一応。
「二世ー、初代ー、大人しく餅食え、餅」
「残念だが、二世の方がちょっかいを出してくるために無理だ…悪いな」
「ちょっかいじゃねぇよ。てか元はテメェからだろうが」
「何を言うんだ？ただ単に何も付けていないのは味気ないと思ったから、二世の餅に色々とかけてやっただけだろう？それがどうして…」
「醤油に餡とかテメェは俺にどんな世界を見せたいんだ……？」
　醤油に餡……あぁ、それは結構きつい気がする。
　ならばあの、二世が武器を手にとって初代を本気で消し去ろうとしているあの光景は、あまり妙な物でもないと言うことか。むしろ納得できるというか……初代はどうして醤油に餡という組み合わせをかけたのだろうか。
　首を傾げていると、超直感で何やら感づいたらしい。初代は軽やかに二世の攻撃を避けながらもこちらに聞こえるくらいの声を上げた。
「いや、自分で試すには少し突拍子もない組み合わせだったからな」
「俺は実験台か！？」
「貴い犠牲と言う方が正しい」
「どっちも同じだッ！」
　……これは二世の方が正しいだろう、全体的に見て。
　あちらにはもう構わないことにして、二世の雨は小さな嵐に餅を食べさせる手を一端止めた。それには訝しげな視線を向けられたが、初代の雨がフォークを持ってこちらに来るのを認めたらしい。憮然とした様子だったが納得はしたようだった。
「ほら、フォーク」
「悪ぃ。後片付けも全部やらせちまって…」
「気にすんなよ。目付役は必要だろ？」
「……あんまいる意味なさそうだけどな」
「そー言うなって。少しくらいは意味あるって」
　フォローなのかどうかよく分からない初代の雨の言葉には、曖昧に笑って返しておいた。

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こんな初代だったら、二世は本当に大変だなぁとか…。