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お花見。
でも、なんかそろそろ散りそうだよね……



 始まりは、学園オーナーのいつものような、唐突な一言。
 彼女にしては珍しく、大人しく窓辺に座って外を眺めていた時のこと。
「花見、いいかもしれないわね……」
 咲いていた桃色を眺めながら、ヴェーダはそう、ポツンと呟いたのだ。
 ……嫌な予感がした。
 ゆっくりと立ち上がって、物音を立てないように部屋を後にしようとする。こういうときは無闇にツッコミを入れず、聞き返すこともせず、彼女が気づかないうちに早急に退散するに限る。これは決して逃げているわけではなく、戦術的撤退だ。別に彼女自身が怖いわけではなく、むしろ怖いのは彼女の行動そのもの…………何でもない。
 あと、もう少しでドアに手が届く、というところで。
「ねぇ、刹那、いいと思わない?」
 悪魔(と書いてヴェーダと読む)が振り向いて、にこりと微笑んだ。



 ……そういうわけで今、刹那たちは満開の桜が並ぶ、近所のある程度の広さがある公園まで来ていた。平日、ということもあって人は少ない。
 平日なのに、どうして生徒の刹那たちがここにいることができるかというと、それは言い出しっぺのヴェーダのおかげ、である。彼女のいつもの職権乱用によって、自分たちは公欠扱いになっている。
 面倒な授業に出る必要が無くなったのは、感謝するべきことかもしれないが……これから何が起こるかを考えると、それは安すぎる代償だとも思えるわけだ。
 ため息を吐いて、弁当箱へ箸をのばす。
 この弁当は……なんと、アレルヤが作った物だ。ヴェーダが花見に行くと決めて、それから双子に弁当作りを依頼していたらしい。だから、ハレルヤ作の弁当もある。丁度アレルヤがつついているところだ。
 卵焼きを食べて幸せそうにしている彼の顔を見ていると、こちらも暖かな気持ちになる。
 だけれど、忘れてはいけない。この後必ず何かがあるということを。あのヴェーダが言い出したことだ、絶対にこのまま普通に終わるわけがない。現に、彼女はありえないほど楽しそうに笑っている。あの笑みは危険だ。
 ちらり、と生徒会会長の方へ目を向けると、彼は辺りをキョロキョロと見ていた。恐らく、あれは脱出経路を確認しているのだ。場合によっては無理矢理にでもこの場から離れないと、本当に命に関わる。最近の彼女の趣味は『色々と混ぜておもしろいものを作る』ことだそうだから。何を飲まされるか、分かったものではない。
 次に、茶髪の貧乏くじを。彼は、連れてくる必要もなかったオレンジの球体の隣で、お茶と一緒に胃薬を飲んでいた。今からあのようなものを飲まないとやっていけないというのは、少々問題だろう。本番で耐えきれなくなりそうだ。……気持ちは分からなくもないのだが。
 アレルヤの片割れは弟の笑顔を見て嬉しそうにしているが、やはり目だけは笑っていない。いくら現在が平和に見えても、警戒は解いていないようだ。正しい対応の一つだろう。ヴェーダが一体、何をする気なのか分からない以上。
 それから……いや、あの酒飲み理事長の話は置いておこう。彼女はすでに酔っているから。それにまともな状態だったとしても、彼女はオーナー側の人間だから。だから今の状態の方がいい。
 他にも連れてきたかった人はいたらしいが、彼らにとっては幸福なことに都合がつかなかったそうだ。
「そうだ、ジュースあるけど、飲む?」
「……何か入っていることは」
「大丈夫。何も混ぜ込んでないから。最初のまんまよ」
 ヴェーダは微笑みながら、液体の入っている紙コップを渡していった。
 刹那は受け取って、まずは臭いを嗅いでみた。
 …普通にリンゴジュースの臭いがする。
「……本当に何も入っていないんですね?」
「ティエリア……くどい子は嫌われるわよ?」
 再び疑問を発したティエリアに、ヴェーダは呆れた様子で紙コップを渡す。
 それを覗き込んだ彼は、一言。
「ブドウ味……?」
「紫だったのか、ティエリア・アーデ」
 それはとてつもなく怖いだろう。ちゃんとブドウ味なのか、それとも何か混ざっているのかがハッキリとしないのだから。
 まぁ、普通にリンゴジュースの臭いがしてきて、色もいたって普通に見える刹那のジュース。これだって絶対安全とは言い難いのだけど。
 飲まないといけないのだが、何とも飲みづらい。不思議そうな顔をしているヴェーダに、今までの行いを全て振り返ってみろと言いたくなった。特に、ここ一年中のことがらをしっかりと。三年前からでもいいかもしれない。ティエリアがいるし。
 キッカケがない。そんな時に役立つのは、彼だろう。
 刹那は茶髪の男の方を向いた。
「ロックオン・ストラトス。お前から飲め」
「は?どうして俺!?」
「渡された中だったら、お前が一番最年長だ」
「だったら年上を敬え!」
「遠慮します。こういうときに率先して動くべきでしょう、貧乏く……ではなくて、最年長者なのだから」
「ティエリア、今、貧乏くじって言おうとしたな!?おい、視線をそらすな!」
「……まぁ、とにかく貴方から飲むべきです」
「そういうわけだな」
 視線を合わせずに言うティエリアに、刹那も頷く。
 ここで彼が飲んで、何も無ければ大丈夫。逆に、倒れでもしたら救急車を呼んで、それでコレを終わりにすることができる。
 実に素晴らしい選択だ。
「……刹那、お前、なんか酷いことを考えてないか?」
「いや、別に何も」
 じとっとこちらを見てくる貧乏く……もとい、ロックオンを軽くあしらって、無言の重圧をかけてやる。これで彼は自分から飲むだろう。
 しばらくロックオンは刹那とティエリア、そして途中から加わってきたハレルヤの視線と戦っていたが(ちなみにアレルヤは、何が何だか分かっていないようだった)……結果はいつもの通り。彼はガクリと肩を落として、紙コップに口をつけた。
 全員(一部例外)が見る中、彼は全て飲んで……それで終わり。
 何も、起こらなかった。
 どうやら本当に普通のジュースだったらしい、と一安心し、刹那も中に入っていた液体を飲み干した。リンゴの味が口いっぱいに広がる。
 見るとハレルヤも飲んでいたし、彼に許可を得たのだろうアレルヤも飲んでいた。
 ただ一人、ティエリアだけが難しい顔でいた。
「どうかしたのか?」
「……刹那・F・セイエイ、不思議に思わないか」
「何を」
「どうして全員の飲み物の味が違うのか、だ」
 言われて、ハッとした。
 刹那のはリンゴ味、ティエリアはまだ確認していないようだが多分ブドウ、ロックオンのはカルピスだろうか。ハレルヤはソーダっぽかった。アレルヤのは薄い桃色だったからおそらく桃の味。見ると、スメラギのは緑茶、ヴェーダ自身のは紅茶らしかった。
 ここまでバラバラなのは、どういうわけか。あのヴェーダが、どうしてわざわざ味を統一させなかったのか。これだけ全部を用意するのは大変だっただろう。というか、途中からジュースの味とかそういう問題では無くなっている気がする。
 おそらく、もう彼女の目論見は達成されてしまっている。ティエリアが警戒して飲まないだろうことは、きっと彼女はお見通しだろうから。そこら辺も計算に入っているに違いない。
 ばっとヴェーダの方を向くと、彼女はにこりと笑った。
 それはもう、イタズラが成功した子供のように。
 危機感を覚えたのだろう、ティエリアが残り三人の方をバッと振り返った。
「っ……おい、何か変わったことはないか!?」
「変わったこと?俺はないけど……」
「俺もねぇよ。ってか、どうしたんだ?」
「僕も無いよ~♪」
 ピタリ、とティエリアが固まった。
 他の二人は驚いて、最後のセリフを口にした人物の方へ目を向けている。
 そして、刹那は額を抑えて二度目のため息を。
「……ヴェーダ、アレルヤには酒でも飲ましたのか」
 いつもはこの問いはティエリアがする物だけど、彼は固まって動けない。だから、代わりに刹那が訊くことにした。誰かが訊かないといけないから、これは。
「酎ハイ辺りだろうが……どうだ?」
「その通り。大正解よ、刹那」
 最近のって、いろいろな味があるのよね。
 そう言って笑う彼女に、だから何だと言いたかった……が、こらえる。言ったら何倍返しになることか。とりあえず、恐ろしいことになるのは確定だろう。
 視線を酔っているアレルヤに向け直すと、彼はハレルヤにじゃれついていた。
 ……羨ましいなんて、思っていない。
「はれるや~」
「………なぁ、茶髪」
 膝の上にアレルヤの頭を置いているハレルヤは、どうしてだか左手で鼻の辺りを押さえていた。
 どうしたのかと見ている中で、彼は右手をロックオンの方に差し出す。
「ティッシュ、持ってねぇか?」
「あー、そういうことな。ほれ」
 ハレルヤが、ポケットティッシュを受け取った。
 そろそろ、刹那にも状況が飲み込めてきた。つまり、アレルヤが可愛すぎて、その上ハレルヤは動けないからこうなったという。
 今のハレルヤがどんな状態かは、あえてハッキリと言わないでおく。ただ、そう。彼が鼻の辺りで押さえて使っているティッシュが、みるみるうちに赤に染まっていく、とだけ言っておこうか。これでほぼ百%言ったようなものだけど。
 それにしても、あれだけでティッシュが足りるのだろうか。
「う~……何だか暑いね……」
「暑……?暖かいくらいだろ?」
「ろっくおん、暑いんですよ~」
 何となく、この先の展開がよめた。
 阻止するべきか、それともそのままにしておくべきか。考えて、刹那は後者を選ぶことにした。
「ブレザー、ぬぎますね~」
「ちょっと待てっ!」
 体を起こしたアレルヤはロックオンの制止も聞かず、たどたどしい手つきでボタンを外し始めた。
 思った通りだった。やっぱりお約束だろう、この展開は。
 ブレザーを脱いで、次はネクタイ。それからシャツを、というところで刹那も彼を止めに入る。さすがにここで、それはマズイ。周りの目とかだけじゃなくて、理性だとか何だとか、とりあえず自分のそっち方向だとかが。それはティエリアだってロックオンだって、少し負け気味のハレルヤだって同じだろう。
 そういうわけだから、何とかして止めないと。
「アレルヤ、暑いからといって脱ききってしまったら、今度は風邪を引いてしまう」
「かぜ……?」
「そうだ。季節の移り目だからこそ、気をつけるべきだ」
「……せつなの言うとおりだね」
 コクリ、と幼子のように頷いて、それからアレルヤは欠伸を一つ。
「……おやすみ」
「え、おい……アレルヤー?」
 再びハレルヤの膝に戻ったアレルヤは、そのまま寝息を立て始めた。
 ハレルヤの呼びかけにも答えないところを見ると、完璧に熟睡らしい。
 刹那は苦笑して、それから真顔に戻ってヴェーダの方を見た。
 そちらでは彼女がのほほんと紅茶を飲んでいて、すぐ隣では仰向けになって寝ているスメラギの姿も確認できた。彼女はどうやら酔いつぶれたようだ。
「ヴェーダ、スメラギ・李・ノリエガを連れてきたのは、酒を持ってきても怪しく思えないようにするためか?」
「それもあるけれど、でも彼女も行きたいって言ってたからね」
「渡りに船、か?」
「そゆこと。酔ったアレルヤ、きっと可愛いと思ったのよ」
 その意見には酷く賛同したい。
 だけれどそれは言わない。言ったら彼女は調子に乗る。これ以上大変な目にあるのはごめんだ。
 刹那は何度目かになるため息を吐いて、アレルヤの寝顔に視線を戻した。


なんか、終わりが微妙な……ごめんなさい…。
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