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「ねぇ、アリー・アル・サーシェス」
「あぁ?何だ?」
「訊きたいことがあってね」

 笑みを浮かべて、リボンズはソファーに座って振り返った状態でいる傭兵に話しかけた。
 彼のこれまでの『履歴』は全て、既に洗い上げてある。それをふまえた上で『使える』と判断したからこそ、彼は今ここにいる。

 そういうわけだから、自分は知っているのだ。
 彼が昔、行う事となったとある仕事を。

「人間の売買をしたことがあると聞いたんだけど」
「そういやそんなこともあったか…で?それがどうかしたかい?」
「それに関して質問がある」
「答えられねぇ質問もあると思うぜ」

 彼がそう言うのは依頼主や買い手の情報などのことだろう。彼の仕事はある程度の信用がなければ成り立たないから、そのあたりの取り決めはしっかりと守らなければならない立場の人間だ。

 その点は心配ないと、リボンズは薄く笑った。依頼主や買い手に興味があるわけではない。興味があるのは『商品』の方だ。

「人間の中にも変な力を持つのがいるのは知ってるよね」
「まぁな」
「それで、君はそういう人間を『商品』としたことがあったね」
「おう。それがどうかしたのか?」
「その時の『商品』について教えて欲しいんだ」

 彼ら……人にして、人の物ではない力を持つ彼らを知るにはまず、手近なところから、だ。ある程度の知識がなければ調べようもないし、考察のしようもない。

 幸いと、自分の傍にはアリーがいた。実際に売買に関わっていた彼ならば色々と、自分の知らないことも知っているに違いなかった。
 だから、どうだい?と目で問いかけると、彼は顎に手をやりそうだな、と口を開いた。

「あの街で会ったガキは覚えてんな」
「あぁ、異端の力を封じる子供だね。彼もそれか……他には?」
「赤毛のガキがいてな、そいつも似たようなもんだった。能力の方は忘れちまったけどよ」
「他、は?」
「いたとは思うが覚えちゃいねぇ」

 何年前の話だと思ってんだ?
 そう言って肩をすくめる彼の言葉は正しく、少し苛立たしい。

 もっと別の話を聞くことが出来ると思っていたのに。これでは、自分の知っている事柄と同じようなことしかない。言葉の端々から知っているのは『商品』のデータのみであって、妙な力を使える人間に関することではない、というのも分かってしまったし。

 あるいは、他に何かを知っているのかもしれない。
 けれど、この言い方だったらそれを話す気がないのも分かる。

「……そうかい。参考になった」
「そりゃどーも」

 どちらも心のこもらない、思ってもない言葉を贈り合って、リボンズはくるりとアリーに背を向けた。自室に戻るのだ。

 イレギュラーはあってはならない。それは計画を狂わせる物だから、計画の実行前に潰しておかなければ、計画は成功しない。成功する確率を著しく下げるそれらを、リボンズは何よりも嫌っている。

 ふっと、リジェネならばこの事に関して色々と知っているのかと思った。
 だけれど彼は今、ここにはいない。
 今度来たときに訊いてみることにしようか。

 

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