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ハプティーズ過去話。脱走した後のシャトルの中での、みんなが死んでしまった後ぐらいの。
その時の二人の話です。
13.アンカー
『なぁ、アレルヤ。もうこの船には俺たちしかいねぇな』
「……」
『俺たちだけ、だな』
「…君が殺したから」
『あぁ、そうだな。けど、それが何だ?』
生きるためには仕方がなかったのだから……仕方がないだろう。
それは片割れも分かっているらしい。抱えた両膝に顔を埋めたまま、肯定はしなかったが否定もしなかった。そのお陰で自分が生きていると、彼も正確に把握している一人だった。最も、一人などと言ってもこの場にいるのは自分を含めれば二人、客観的に見ると一人だけなのだが。
まぁ、客観的に見る、なんて今は全く意味のない言葉だが。
何せ、小さな船の中にいるのは自分たちだけだ。
まるで箱庭だ。小さな小さな箱庭。身を脅かす物は時間と空腹くらいのもので、それも地上に降りるまではどうにか持つことが約束されている代物だ。何も起きなければ、の話ではあるが。それでも、今この瞬間は安息が約束されている箱庭。
作り出すには、地獄を作る必要があった箱庭。
だから、笑みを浮かべて引き金を引いた。
『アレルヤ、お前は俺が間違っていると思うか?』
「……酷いことを聞かないで」
『酷くねぇよ。このくらい普通の世間話だろ』
「…それは絶対に違うと思う」
『そうか?それより、どう思うんだよ』
「…言えるわけがないじゃないか」
『だろーな。お優しいアレルヤ様が言えるとは思えねぇ。肯定だろうと否定だろうと、な』
ハレルヤを否定することはそのまま自分の否定へ繋がる。アレルヤによって生み出されたのが自分だから。そんなことは関係ないほどに、既に自分は確固とした存在を、脆い地盤の上に作り出しているのだが。…そんな事情があろうと無かろうと、アレルヤがハレルヤを否定できるとは、全然思えないけれど。
対して、肯定することは仲間たちへの裏切りとも取れる。自分だけ生き延びようと、共に逃げようと思った仲間たちを犠牲にしたのだから。全員を死の世界へ送り出して、自分だけ生の世界へ逃げ出したのだから。
だから、どちらも言えるわけがない。
それでも言ったのは、半分はアレルヤを困らせたかったからだ。理由なんて特にはない。理由が無くても行動は出来る。
もう半分は、多分少しくらいは期待していたのだろう、肯定を。
ハレルヤがその気にならなければ、いつもコミュニケーションを取れるのはアレルヤだけ。ハレルヤの世界はアレルヤだけだ。そんな相手からの肯定が欲しいと思うのは、別に間違っても狂っても何でもない、それこそ普通だと思う。
そんなことを思っている間に、アレルヤは顔を上げていた。
片割れの目にハレルヤが作り出した惨状が映り込むのを、どこか嬉しく思いながら、同時に訝しく思う。俯いていたのはこの光景を見ないためではなかったか。少なくとも自分はそう思っていたのだが。
こちらの疑問に構うことなく、アレルヤは静かに呟いた。
「…ハレルヤ」
『何だ?』
「僕は……肯定も否定もしないけど」
『出来ないの間違いだろ』
「……それはそうなんだけどね。今は、そんな揚げ足取りはいらないよ…?」
『だろーな。んで?』
「…感謝くらいは出来るよ、ハレルヤ」
この名前を呼ぶだけで感謝しているような物だけれど。
そう言って、アレルヤは笑った。『今』とは全く不釣り合いな穏やかさで。
「ありがとう、ハレルヤ。肯定はしないけど感謝はする」
『ワケ分からねぇんだけど。それって結局どういう事だ?』
「僕が生きているのは君のお陰」
それが感謝か。
「でも、みんなが死んだのは君の手による物だから」
それが肯定できない理由。思った通りだ。
「だからね、そうしようって思った。肯定しないけど、感謝しようって。いくら僕が人を殺すことが嫌でも、自分を助けてくれる存在を否定は、したくないもの」
だからと、今度は悲しげに笑う。
「感謝しながら、僕はみんなのことも弔うよ。残されたのは僕だけだから」
『それで良いんじゃねぇの?』
「良いんじゃないって…ハレルヤ、何か軽い…というか機嫌が良い?」
『さて、どうだろうな?』
ハレルヤはニッと笑った。機嫌が悪くないのは事実だった。
出来るだけ本編通りにしてみたのですが…出来きっているかは不明。