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何というか、風巡る地設定の元就成長記なのかもしれない出会いシリーズです。
成長っていっても心のではないですが、殆ど。



 最初に松寿丸と会ってから、数年が経った。
 松寿丸はもう、子供とは呼べない年齢になっていた。十五歳くらいなのだが、普通の同年代よりも冷静で怜悧な目もあってか大人びてさえいて、それも子供扱いを躊躇わせる事に一役買っていて、実際人間たちは彼のことを完全に大人として扱っている。
 けれども、だからといってそれは自分にはあまり関係なかった。
 何せ、こちらは千年単位で生きている竜だ。年齢など、人間などとは比べようもない。
 松寿丸は姿も力もどんどん成長し、政宗は彼が子供であったときに出会った姿と変わらないままいつづけ、そんなある、日。
 その日も、政宗は何をするでもなく離れの中でボウッとしていた。正確にはウトウトしていたというべきか。外に出ることが出来ず、一人を除いて誰も寄りつかないこの場所ではこれ以外にすることがない。
 だが、ふいに。
 いつもと違う気配を感じて政宗はうつむき気味だった顔を上げた。
 …いつもと違う、気配。けれど、別に知らない気配ではない。それなのに違うと思えるのは、その気配が何か様子がおかしいから。まるで、夢遊病の患者のような、地に足が付いていないかのような意識の在り方。
 瞬時に、悟る。
 何かがあったのだ。
 あの、子供に。
 そういえばここ数日訪れてこなかったなと思いながら意識を浮上させ、じきにこちらにやって来るだろうと待つことにした。彼は、毛利家の人間でありながら毛利家の人間を信じていない。毛利家自体は嫌いではないが、毛利家の人間は大嫌いだと以前松寿丸が語っていたのを覚えている。
 そんな彼だから、何かあっても毛利家の人間に相談するとは思えない。今までと同じように、ここに来て口を開くに違いなかった。
 だから、待った。
 静かに…ひたすら、静かに。
 そうして。
「…ぼ、ん」
 開いた障子の向こうにあった姿に、思わず息をのむ。
 そこにいたのは松寿丸だった。それは、予測済みだったから別に驚くべき箇所ではない。ただ、その彼の様子がただならぬ物だったから。
 赤の血に、まみれた姿だったから。
 その様な物は見慣れているとはいえ、突然、意外な相手が……ともなれば、当然ながら驚きに固まってもしまう。
「松寿丸…お前」
「…仕事を、してきた」
 今日が、成人の日だったから、と。
 そう言いながらフラリとした足取りでこちらに向かってきた松寿丸は、政宗の目の前でがくんと膝を折った。その上、ゆっくりとこちらの方に倒れてくる物だから、慌てて受け止めて、あやすように背中をさすってやる。その対応が、相応しいと思えた。何となく……泣きそうな表情だった気がするから。
 何となく、今の彼の気持ちは分かった。人間より妖が好きだと言ったあの時の子供。その時から、彼の人間に対する思いは何一つとして変わっていないだろう。そんな彼だというのに、妖を狩ったのだ。それが、仕事。
 成人の日、というのは毛利家において一人前だと認められる日のことを言う。この日に新しい名を得て、初めての仕事に向かうのである。
 そうして、松寿丸は、今日、初めて妖を殺したのだろう。
 祓うなどと言うと少しは聞こえが良いかもしれないが、実際は殺しているのと同義語で。
 毛利家当主という事実がもたらす現実を、今日、彼は知ったのだ。
「…梵、我は、間違ってはおらぬな…?」
「間違ってねぇよ。毛利家の人間ならコレが当たり前だ」
「では、人としてはどうなのだ?」
「……一つ、言っておいてやる」
「…何、ぞ?」
「人間は妖とは相容れねぇんだ。それにな、妖も人間を認めてねぇ。それが全てだ」
 所詮違う者同士。分かり合うことなど到底無理だ。同種族でさえ分かり合っているように見えても、本当に分かり合っていることは本当に少ない。それがここまでかけ離れた存在であれば不可能にも近いだろう。
 だからこそ、分かり合えるという幻想を抱くべきではない。
「…ならば、梵は我のことをも認めておらぬのか」
「いいや?お前を否定する気はねぇ」
「…先と言っておることが違うぞ」
「良いんだよ、俺は。事実を事実として言って何が悪いってんだ?」
 人は妖を認めず、妖は人を否定する。それが一般論であるだけのこと。
 そして自分はそれを定規として使わず、ただ個々の持つ『  』に思いを重ねるだけであり。それは恐らく、自分が世界で一つしか存在しないからなのだろう。定規が無いのだ。
 随分と落ち着いてきた松寿丸に、政宗は出来るだけ優しく言った。
「お前、新しい名前は何て言うんだ?」
「…元就」
 その名前に一瞬目を見張ったが、直ぐに気持ちを入れ替えて、言う。
「そうか、元就。それなら俺は政宗、だ」









ゲームリアル版毛利さんだったらここまで弱る事って無いのかも知れない…あったら多分、二重の意味でえらいことですね。とても信頼している人の傍だったらあるいはだけれども。
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