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ありがとうの日、って、あったら素敵だと思うんです。
16.ありがとう
「ロックオン、知ってますか?今日はありがとうの日なんだそうです」
「は?」
何だその日は。
出会い頭のアレルヤの言葉にロックオンは瞬時にそう思い、同時に、どうして彼がその様なことを言い出したのかを正確に把握していた。
それでも、念のため、確認のために問いかける。
「それ、誰に聞いた?」
「スメラギさんが言ってました」
「…だろーねぇ」
予想通りの答えに、こちらとしては苦笑するしかない。
そういう事を伝えるのはスメラギであることが多いのだ。実在しない日となればそれは彼女以外に存在しないだろう。
全く、どうしてそんな嘘を言うのだろうかと、ロックオンは少し呆れた。直ぐに気付かれそうな嘘だ。そんな嘘を真に受けて行動するのは目の前の彼……あるいは刹那くらいのものなのかもしれない。二人とも、少しばかり世界を知らないから。裏側のことは不必要なほどに知っているようなのに。
ティエリアもあるいはしばらくの間なら騙されるだろうかと思いながら、ポン、とアレルヤの両肩に手を置く。
キョトンとしている彼に、言い聞かせるように、一言。
「アレルヤ、それは嘘だぜ」
「あぁ、そうですよね。分かってます」
「……へ?」
「最初はそうなのかと思ったんですけど、ハレルヤが違うって直ぐに否定してくれて。その後他のみんなにも言われました」
「他のって…まさか全員に言って回ったのか!?」
「えぇ。折角の機会でしたから」
微笑んで、アレルヤは指折り始めた。
「まずハレルヤに言って、スメラギさんに言ってから、コンテナにいた刹那とイアンさんに。ティエリアとは廊下で会ったからそこで。ブリッジに行ったらフェルトもクリスティナもリヒティもラッセさんもいたから、全員纏めて言いました。つまり…」
「俺が最後、と」
「そう言うわけですね。だから探してたんですけどなかなか捕まらなくて…途中でハロに会ったから、先に彼らに言ってきましたよ」
「…そりゃ、随分と頑張ってんじゃねぇか」
「折角の機会ですから」
たとえ嘘でも、その言葉は口にされた瞬間に力を持つと、これはその一例なのだろうか。たとえ嘘だと知っていても、わざと信じるふりをすれば口実になるのだから。
もっとも、現状はそこまで行っているわけではない。ただ、近い物はある。嘘と知りながら、それを口実にと信じてはいなくても利用しているという点で、結局は同じ事だった。どちらにしろ、結果は同じだ。
中々。思いながらロックオンは口元を緩めた。
それから、アレルヤの両肩にのっていた手を放して、右手を持ち上げ、ワシャワシャとかき混ぜるように彼の頭を撫でた。
「わ!?」
「やっぱ良い子だよなー、アレルヤは。その思いやりの精神を刹那もティエリアも…特にティエリアが持ってくれたら嬉しいんだけどな」
「…それ、口にしたらダメじゃないですか?」
「ん?そうか?」
「だって、ティエリアに知られてしまうかも知れないでしょう」
「げ」
ロックオンは言って、苦い表情を浮かべた。
「それは拙いな」
「でしょう?それにティエリアも思いやり、ちゃんとやってますよ」
「アイツなりにな。分かってるさ」
ただ、もう少し柔らかな思いやりを頼みたいのだけれど。
願っても詮なきことかと肩をすくめると、クスリという笑い声。
「ファイトですね、ロックオン」
「ちょっとは手伝ってくれよな。一人だとたまに挫けそうだしな」
戯けた調子で言うと、彼もそれを知りながらだろうが、笑いながら頷いた。
「少しくらいなら頑張ります。ロックオンにも感謝してますから、そのくらいなら」
「そりゃ頼もしいな。期待してるよ」
「ご期待にそえるかは保証しませんよ?」
「それで充分」
笑って、ロックオンは続けた。
「充分過ぎるくらいだぜ。ありがとうな、アレルヤ」
むしろ私から。皆様にありがとう、という気分です。