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そして異変は。
…なんかそうやって言うと、ちょっぴしRPGっぽいですよね。
55:向日葵
ステイメンは、ちょっと不謹慎だとは思っていたのだけれど、とてもわくわくと大会会場までの道を長兄に手を引かれて歩いていた。
だって、楽しみではないか。兄たちが頑張って、格好良く戦うところを見ることが出来るなんて、本当に滅多にない経験だ。兄弟のケンカではなく、公式の試合であるところもまた大きい。兄弟ゲンカなら見飽きているけれど、そうではないのだ。
何だかんだで結局持っていくことになった菓子を手に、気分は『るんるん』という音が出てきそうなくらい明るい。
だからニコニコと笑顔で、兄たちを見上げた。
「にーちゃんたち頑張ってね。応援してるから!」
「そっか。じゃあ頑張らないとなー。ほら、お前も返事しろよ」
「…」
促された次兄はしかし、それでも何も言わなかった。けれども代わりにポンと頭に手を置いてくれたから、きっと何かを言うのが照れくさかったのだろうなというのは、分かる。少なくとも頑張るとは言えなかったのだろう。
理由は簡単。
GP-01が、ニヤニヤ笑顔でGP-02を見ているから。
……次兄がこんなので素直に応じることが出来るワケがないのだった。
そして同時に、長兄が放っておくワケもなく。
「あっれー?サッちゃん返事しなくて良いのかなー?」
「…テメェ、大会に出る前に満身創痍になりてぇのか?」
「いやいやまさか。オレは直ぐにでも逃げるけど」
「そんときゃ斧でも投げつけてやる」
両者から…ではなくて、主にGP-02からの一方的な敵意が辺りに満ちる。
これは…ちょっとマズイのでは。
思ったのだが、ステイメンには手が出せなかった。というか、手の出しようがなかった。ここで出したらどうにかなるかもしれないけれど、けれど……そんなことをして、大会に支障が出ないわけがないわけで。
絶対に途中で止めたらストレス発散も何も出来なかったGP-02は試合中にGP-01を盾にでも何にでもして、間接的に攻撃を加えるに違いない。
そして一番の問題が、その流れを長兄が理解しきっていることだろう。
「にーちゃんたち…もっと大人になってくれればいいのに」
対してそれが、末弟の心からの呟きだった。
ため息を吐いて、他の人たちを見渡す。
他の人たちは、まぁ、やっぱりいつもと変わらなかった。眠そうだったり、あちらこちらをキョロキョロと見ていたり、長年の腐れ縁といがみ合っていたり、その様子をハラハラ見ていたり、微笑みながら見ていたり。おおよそ、そんな感じで。
どんなところにいても変わらないんだなぁと思うと何となく嬉しくも思えて、くすりと笑う。いつも通りが一番というのは誰が言った言葉だったか。
ということは、兄たちも大人にならずに今のまま……いや、それがずっといつも通り、というのは困るのだけれど。弟として。
などと思い、ふ、と視界に映った一輪の花を見る。
それは向日葵で、この場所は今の季節は夏なのだろうと、そう思わせるほどに力強く咲いていた。花が向くのはその名の通り太陽の方。花びらは鮮やかな黄色。
だが、それが。
一瞬にして枯れた。
一瞬にして、消えた。
「…!?」
起こった事柄が信じられず、思わず目を擦って同じ場所に視線を向ける。
果たして、そこには何もなかった。
枯れたはずの花は消え、そこには初めから何もなかったかのように柔らかそうな土が残っているだけ。跡形もないというのは、多分こういう事なのだろう。が、あまりに跡形がなさ過ぎて、現実感がない。
「…ね、にーちゃんたち」
「ん?どうしたんだ、ステイメン?」
「あそこ…花、なかったっけ」
花があったような気のする場所を指さして問うと、長兄ははてと首を傾げた。
「花?さぁ…分からないけど、見た感じでは元から何もなかったみたいだよな。お前も思うだろ?な、サイサリス」
「だからその名を呼ぶなっつって……」
「はいはいそうだね。それでどうだと思う?」
「…元から無かったように思えるぜ」
「だってさ、ステイメン」
「…そっか」
なら、そうなのかもしれない。見間違いなのかもしれない。
消化出来ない思いを抱えつつ、結局ステイメンはその結論を受け入れることにした。
毎度思いますが、サイサもといGP-02は苦労してますよね。あの兄が兄ではねぇ…。