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いったい何設定なのだと言いたくなる話ですが、本編設定です。
13.レンタルビデオ
その光景を目にした瞬間、伸ばした手はぴたりと動きを止めた。
思いもよらなかった光景に目を見開く。それは歓迎するべき事柄ではあるのだが、まさか、こんな時に起こってしまうなんて。可能性は零では無かったとはいえ、やはり実際に起こりえてしまうと複雑な気持ちになる。
嬉しいのに悔しくて、素直に喜べない。
その事に、多大な口惜しさを感じた。折角出くわした素晴らしい光景だと言うのに、その素晴らしさをありのまま感じる事が出来ない自分と、自分にそうさせてしまう今と言う状況に対して。恐らく、感情と状況が許したのなら、自分は出来うる限り最大限に喜びを表しただろう。
しかし、嘆いたところでその空白に変わりは無い。
ため息を吐いて、刹那は上げたままだった手を下ろした。
そして、胸の内に生まれた穴を埋めるべく、その代替となりそうな物を探す。もっとも、本当の意味で代わりになるものなどが存在するわけもないのだが。
それでも探さなければやっていれない自分に苦笑しているというのに、手は、触れるべき物を求めてふらふらと彷徨った。自分が自身に現在抱ている感情など、知ったことではないと言わんばかりである。
構わないかと、その手を眺めながら思う。ぽっかりと空いた穴は埋められることを求めているし、ならばその感情を無視してまで手を止める必要も感じない。
故に、探す。
代替となるものを。
代替と成り得る物を。
満足に足るであろう物を。
探す。
そして。
「……刹那ー、借りるDVD決まったー?」
背後から響いてきた声に、無言のまま振り返った。
すると目に映ったのはオレンジ色のガンダムのマイスター。彼は両手いっぱいにレンタルDVDの入れ物を持っていた。一人であの量を全部見ると言うわけではないだろうから、恐らくこの場所にこれなかった他のクルーから幾つかお使いを頼まれているのだろう。
かく言う己もそれに類する物は受け付けているのだが、正直、あまり捜索に乗り気では無い。面倒なのではなくて、興が乗らないのだ。
まったく、どうしてガンダム作品以外を選ぶことが出来るのだろうか。もしもそちらを選んでくれていたら、自分は喜んで捜索に取りかかり、なおかつ関連DVDも選び取って持って帰ったに違いないのに。
もちろん人によって趣味趣向が違うと言うのは理解している。だから、自分が思う様な選択を他者がしてくれない事が多々あるという事実も、理解している。けれども、その辺りの差異はどうしても自分は納得出来なかったのである。
話しあえば互いを理解できるかもしれない。
けれども、どうしても相容れない場所と言うのは存在するのだ。
そこを上手く受け止めて、やんわりと返す事が平和実現のための第一歩なのだろうとは思うのだが……残念ながら、まだ自分はその域まで達していないらしい。
と、そんな風に思い沈んでいた刹那は気付かなかった。
アレルヤが、驚きの表情を浮かべていた事に。
「せ……刹那……」
「……?どうかしたか?」
「な……何で泣いてるのっ!?」
「泣いている……?俺が……?」
そんな馬鹿なとまだ何も持っていない手を目元にやると、確かに、感じたのは湿っぽさ。
本日二度目の思いもよらない事態への遭遇に唖然としていると、ててて、とやや駆け足で微妙にあった距離を詰めた仲間が心配そうな表情で刹那の顔を覗き込んだ。
「何か嫌なことでもあったの?」
「嫌なこと……いや、そんなものは無かった」
「じゃあ、どうしたのかな」
「……多分、借りようと思っていた物が先に借りられていたからだと思う」
「借りようと思っていた物?」
「00セカンドシーズンの五巻だ」
伸ばした手の先にあった、DVDの容器が空になった入れ物。
それを見た瞬間の衝撃を思い出しながら目元をぬぐうと、アレルヤが気遣わしげにこちらを見やった。彼は、自分がどれ程あれを見るのを楽しみにしていたか知っているから、こうも心配してくれているのだろう。在り難い事だ。
仲間の気遣いに感謝しながら、別のガンダム作品のDVDを選びとる。
「今回はこちらにする」
「そっか……うん、分かったよ。次は、ちゃんと五巻があると良いね」
「あぁ……そうだな」
励ますような彼の言葉に、刹那はこくりと頷いた。
その日の夜、借りてきたDVDを見てご機嫌な刹那の姿があったとか。
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