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「あの……」
「黙って付いてきてください、少尉。見せたい物があるんです」
「……はぁ」
ソーマは今、女性の軍人に手を引かれて歩いていた。
事の始まりは、暇を持て余していた自分の部屋に突然、彼女がやってきたことだった。状況について行けないソーマを彼女はいっそ感服するほどの素早さで、そこから連れ出したのだ。
そして、今に至る。
一体……何だというのだろう?様子からして緊急の用事ではないようだし、ならば本当に、ただ見せたい物があるだけなのだろうか?……だとしたら、それは何で、どこにあるのだろうか。
分からないことだらけだったが、まぁ、彼女とは同性と言うことで多少親しくしているし、こちらに敵意を抱いているわけでもない。付いていっても問題は無いだろう。
などと思っていると、前を言っている彼女がチラリと視線を寄こした。
「ところで少尉、今日はんんいちか知っていますか?」
「五月二十一日だと記憶していますが」
それが?と問うと、彼女はやはり、と呟いてため息を吐いた。
……今日は何かがあっただろうか?いくら考えても、心当たりはない。
まさか、人革連の何らかの記念式典……という事は無いだろう。さすがにそんなものがあったらソーマだって覚えている、と思う。
「今日は……」
「着きましたよ、少尉。ここを開けば分かります」
言葉を遮られ示された方を見ると、そこは食堂。
ワケが分からない。ここに、何があるというのだろう?
が……開ければ分かると言われているのだし…と、ソーマは扉を開いた。
パーンッ!
小さな破裂音と共に、色とりどりのテープが宙を舞う。
いきなりのことに驚き、呆然としていると真正面にあった、大きな垂れ幕もどきが瞳に映った。
そこにあったのは『お誕生日おめでとう』という文字。
状況からして、この誕生日はソーマの物だろうが……そういえば、今日はそんな日だった気がする。どうでも良いことだから、すっかりと忘れていた。
にしても…なるほど。誕生日というのは単なるデータの一つでなく、祝うような物だったのか。施設にいたころには祝われたこともなかったし、従ってこんな状態は想像が付かなかった。外側には、色々なことがある。
「少尉…おめでとうございます」
「ありがとうございます」
彼女に礼を言い、ついと視線を巡らせる。
明らかに手作りの料理、少し大きめの白いケーキ、それに……笑顔の軍人達。
何でこんな物を祝うのかは……完全に理解したわけではない。今日いきなりその事実に触れたのだから、し難いというのも仕方がないという物だ。
だが、彼らの姿を眺めていると『誕生日』とはこういうものなのかと、何となく実感を持つことが出来た。
「少尉」
こういうのも、たまには良い物かも知れない。
そう思っていると、ふいに直ぐ傍から声が聞こえてきた。
声のした方向へと顔を向けると、そこには一番共に行動する回数の多い、自分の上司が、優しい笑顔を浮かべて立っていた。
「おめでとう、少尉」
「……ありがとうございます、中佐」
はぴば!ソーマちゃん!
ソーマは軍の中でもかなり若いだろうから、結構人気なんじゃないかなって。
ほら、最近は表情も前より豊かだし。